特別編集記事

現在の店長が身につけるべき「実力」とは?

一.店長に求められる3つの能力(自立型店長の時代)

フードサービス業の店長に求められる基本的な能力とは何でしょうか? それには大きな柱となる3つの要素があります。  第一の柱は店舗オペレーション能力(運営能力)。店舗におけるすべての作業やサービスをこなすための、QSCオペレーションレベルを向上させていく専門的技能のことで、テクニカル・スキルともいいます。第二の柱はマネジメント能力。チェーンストアでは店長のことを「店舗資産が要求する必要営業利益高責任者」と定義します。スタッフを教育し、顧客満足度を向上させ、客数を増やし、経費をコントロールして、利益を上げることができる人を、店長と呼ぶのです。マネジメント能力は、3つのCといわれる能力を統合したもの。人を管理していくコミュニケーション能力、人を調整(お客様・部下・本部を調整)していくコーディネーション能力、そして創造性を発揮していくクリエイティビティ能力です。これまでチェーンの店長には、本部の指示を確実に遂行する力が多く求められてきましたが、近年は自ら考えて行動する自立型店長へのニーズが高まっています。自立型店長には、スタッフとディスカッションしながら確実に実行する能力が必要。「P・D・C・Aのマネジメントサイクル」(計画 Plan・実行 Do・評価 Check・行動 Action)を回し続けて結果を次の計画に活かし、品質やサービスの向上に絶えず挑み続ける力が、今求められているのです。店長のマネジメント能力とはすなわち、「3つのC」+「P・D・C・A」を指します。第三の柱はリーダーシップ能力。これは人間力、つまり人間的魅力のこと。ヒューマンスキルともいいます。店舗のメンバーにモチベーションを与え、やる気を盛り立てる力であり、一朝一夕で身に付く能力ではありません。店長自ら常に元気で前向きな態度を心がけ、P/Aを信頼して全員に関心を持ち、いつも気遣って声をかけ続けることで、自然に身に付いてきます。要するに店長の能力の基本は、店に対する愛着心と、部下・仲間に対する愛情なのです。店の盛衰は、店長、つまりあなたの能力のレベルによって決まります。あなた自身が、それを強く自覚することが重要です。これから解説していく「実力店長のポイント」や「6ヵ月講座」を参考にして、ぜひステップアップを図ってください。

二.実力店長になるための7つのポイント

1.徹底した実行力がある
株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)の柳井正社長が、ある書籍の冒頭で次のように語っている。「いい会社とそうでない会社は何が違うのかそれは経営をやっているかどうかだと思います。では経営とは何か。それは実行することです」…いい会社も悪い会社もやることは一緒であり、違うのは「どの程度までやるのか、どの水準を目指すのか、それだけ」だというのです。これは飲食店でも全く同じと言えます。優れた店長には行動力があります。前述したように、「P・D・C・A」のサイクルを回すことが非常に重要なのに、プランばかりで実行の伴わない店舗がいかに多いことでしょうか。次のような結果を出している実力店長たちを見習いましょう!

  • 毎日のメモの習慣で、過去にお客様と交わした会話の内容を覚えている店長
  • ハーモニカの生演奏でハッピーバースデーを演出する店長
  • 法人営業を毎日3時間以上実施する店長
  • お客様の名前を300人以上覚えている店長
  • 50人のP/Aと毎日交換日記をして教育&コミュニケーションに努めている店長


2.優れたリーダーシップで、店を変える
スポーツの世界では、優秀な監督の登場によって、弱小チームが見違えるほどの強豪に変身することがあります。その理由は次の通り。

  • 優れたリーダーの情熱とバイタリティによってチーム全体の雰囲気が盛り上がるため
  • 専門的知識と経験の豊富さに選手が敬意を表し、リーダーの指導を受け入れるため
  • リーダーの指導通りにトレーニングすることで、結果が確実に好業績に結びつくため

リーダーとしての店長の役割で最も重要なのは、部下社員やP/Aに働く意欲を持たせることです。店長が教育・訓練に時間と労力を費やすほど、優れた人材が育ちます。育った人たちがフレンドリーで質の高い接客をすることで、リピーターが増えて客数が伸びます。店長は、このような好循環を生み出すために、強いリーダーシップでP/Aを変えていかなければならないのです。彼らの懐に飛び込み、ポジティブなエネルギーを吹き込んでいきましょう。実力店長シリーズで取材して来た店長たちのほとんどが、異動後3ヵ月で結果(数字)を出しています。集中して、優れたリーダーシップを発揮しましょう。

3.志が高く、誇りがある
優秀な実力店長たちはなべて志が高く、将来への夢やロマン、仕事に対する誇りやサービス業を愛する心を持っています。彼らは、フードサービス業は食とサービスを通じて人を幸福にするビジネスだと考え、その道を極めることの素晴らしさを知っているのです。「人が輝くサービス スターバックスと僕の成長物語」(黒石和宏・著)という、話題の本があります。スターバックスの元社員で、今や「伝説のバリスタ」として名を馳せる著者が、スターバックスとともに成長して来た記録が綴られています。黒石氏はアルバイト時代、なぜマスメディアを使った広告宣伝をしないのか、角田雄二社長に聞いてみたそうです。社長は複数のアルバイトたちの前で、「君たちがブランドだからだよ」と答えました。そして、広告も大事だけれど、まずは働く人が重要、働く人が仕事に誇りを持っていることが伝わった時、人はスターバックスを本当に『いいな』と思ってくれるようになるのだと続けました。この言葉が今も鮮烈に黒石氏の心に残っているといいます。スターバックスの強さはスタッフの誇りにあったのです。仕事への誇りと高い志、これを日々強く胸に刻みましょう。

4.向上心があり、常に前向き
 「実力店長はここが違う」シリーズの取材の際、自分もいつかこのシリーズに出たいと思っていたと、多くの店長が語ってくれました。本誌を定期購読している店長が多いのは嬉しい限りです。彼らは皆、店をより良くするために本や雑誌を読み、店舗見学(視察)をし、業界仲間や先輩の話を聞き、セミナーに積極的に参加するなど、自分を磨こうとする向上心が旺盛です。彼らはまた、人のやる気を促すため、常に肯定的かつ謙虚な態度を示します。次のような姿勢が大切なのです。

  • 意識的にポジティブな言葉を使う
    「大好き」「うれしい」「ワクワクする」など、いつもポジティブな言葉を使いましょう。
  • 感謝の気持ちを素直にいっぱい伝える
    たとえば仕事を終えたP/Aには「おつかれさま、今日もありがとう」と、必ず感謝の言葉をかけましょう。
  • 笑顔で明るく全員に挨拶する
    今日シフトに入ったP/A全員とのコミュニケーションを図りましょう。店長とのちょっとした会話が店に良い空気をもたらします。
  • 拍手でP/Aを称賛する
    お客様からほめられたり、他の人をサポートしたP/Aを、朝礼などで拍手で称えましょう。拍手には気持ちを高揚させ、やる気を促す効果があります。
  • P/Aの話を聞く
    話を聞くのは相手を認めること。互いの距離が縮まります。店長に聞いてもらえるだけで問題が解決することも少なくありません。また、定期的なカウンセリングも必要です。


5.自分の強み(得意分野)がある
 これまで100人以上の実力店長を取材してきましたが、一人ひとりがそれぞれ独自の強みを持っていると強く感じました。自分の強みがあれば、大きな自信になります。料理に造詣が深い店長、外商活動に強い店長、お客様の顔と名前を覚えるのが得意な店長、販売促進が好きで企画・実行に強い店長、心を込めたホスピタリティで常連客を増やしている店長など、それぞれ得意分野があるはずです。「この分野に関しては社内ナンバー1」といえる強みを持つべきです。私の会社員時代、営業部長に就任したばかりで不安を抱えていた時、ある先輩に「得意分野を磨いて勝負すればうまくいくよ」と励まされ、不安が消えたことをよく覚えています。他人と自分との違いは何でしょう。そこにこそ個性があり、一人ひとりに課せられた使命も存在します。長所を磨けば短所が消えるともいわれるほどに、自分にしかない力を磨くことがビジネスマンとして非常に重要となります。人とは違う、あなたならではの得意分野で勝負してください。

6.毎日の小事を大切にする(一の哲学)
 「些事怠らず」または「凡事徹底」という言葉があります。小さなことでも毎日怠らずに徹底して行うべし、という意味です。飲食店の仕事というのは、そもそも小事の積み重ねです。スタッフ同士の挨拶、徹底したクレンリネス、バックヤードの整理整頓、毎日の朝礼など、怠ることなく日々積み重ねていくものなのです。先日取材した「きちり」の店長は、従業員の共有スペース(事務所、更衣室、トイレ、下駄箱など)を常に美しく保つことに気を配っているそうです。自分たちが使う場所がきれいに保たれている店は店内もきれいで、サービスも優れているものです。カー用品のオートウェーブの廣岡等会長は、次のように「一の哲学」を唱えています。「一ヶ月に一万人の来客があっても、お客様は『お一人ずつ』ご来店される。そして『お一人ずつ』満足して頂くしかない。一万人の満足なんてない。お一人お一人の満足があるだけ」…一客ずつ、一品ずつ、一瞬一瞬に精魂を傾ける。これがオートウェーブの経営理念となっている「一の哲学」です。日々の小さなことを一つずつ丁寧に根気よく積み重ねていくのもこれと同じ。一を極めて、お店を変えていきましょう。

7.ほめ方・叱り方のバランスが絶妙
 実力店長シリーズでは、しばしばスタッフに対する「ほめる」と「叱る」の比率を店長に尋ねています。どちらかに重きを置く店長が多いのですが、部下社員は「叱る」中心でP/Aは「ほめる」中心というように使い分けている店長もいました。元経団連会長の土光敏夫氏は、「ほめるべき時にほめ、叱らねばならぬ時に叱れ。ほめも叱りもしない管理者は救いようがない」と語っています。どちらも容易なことではありませんが、ポイントを踏まえてきちんと行えば、スタッフには伝わるはずです。ほめられることで人は自信を持ち、その店で働くことにやりがいを感じるようになります。教えられ、見られ、評価されることで、人は生き生きと輝いてくるのです。そしてもちろん、時には厳しく叱ることも必要。同じ失敗を繰り返したり、仕事に慣れて心の鮮度が失われ、やるべきことが徹底できなくなったら叱るべきです。部下を思う気持ちと信頼関係があれば、厳しく叱っても大丈夫なのです。ある実力店長は、部下の長所を見つけて引き出すことに努め、叱る時も「君の一番いいところが出ていないぞ。君らしくないな」と、叱りながらも励ますようにしています。  ほめることが多い人は、たまには厳しく叱ることも重要。適度な緊張感は必要なのです。逆に叱ることが多い店長は、時にはとことんほめるのを忘れずに。大切なのはほめると叱るのバランスがとれていること。そしてそれらの根拠が明確なら、P/Aが不満を感じたり根に持ったりすることはありません。二宮尊徳は「可愛くば五つ教えて三つほめ、二つしかって良き人とせよ」と述べています。先人の教えを噛みしめたいものです。

※飲食店経営 2009年12月号特集コラム

バックナンバーページへ