特別編集記事

「スタッフのやる気が高まる」時給の決め方&上げ方

フードサービス業において、顧客と直接接するのは主にP/Aだ。P/Aのオペレーションレベルが高いほど顧客満足度は向上し、その結果リピーターが増えて、客数が増加する。つまり、店の信頼度はP/Aの質の高さ=彼らが提供するQSCの高さで決まるということだ。優秀なP/Aなくしては、店の繁盛はあり得ない。P/Aは単なるワーカーではない。顧客満足・顧客感動の理念を彼らと共有し、全スタッフ一丸となって店舗運営に取り組むことにより初めて店は活気づき、顧客の支持を得られるのだ。そんなP/Aのやる気を左右する重要な要素の一つが、時給。やる気を高める時給の決め方と上げ方について解説していく。

P/Aのランクアップ制度

人材レベルを3つに分ける「2:6:2の法則」という組織論がある。2割の優秀なP/Aが前向きに店の運営をリードし、6割の普通のP/Aが指示通りに仕事をこなし、残りの2割が戦力にならずに足を引っ張っている、という構図だ。優秀な2割が「人財」、6割が「人材」、残る2割が「人罪」であるともいわれる。重要なのは6割の部分である。この6割の人材にいかにして火をつけ、モチベーションを高めさせ、人財へと引き上げていくかが、いま店長に求められている。積極的な2割のグループを3~4割に増やすことができれば、店は明らかに変化する。それが過半数を超えれば、顧客満足度の高い素晴らしい店へと変わる。優秀なP/Aが5割を超えるような店づくりをしよう。そのために必要なのが、P/Aのステップアップを応援するランクアップ制度だ。多くの大手チェーンではこの制度が稼働しているが、中小ではまだ整備されていない場合が多い。ここで、ランクアップ制度の例を紹介しながら具体的に解説していこう(図を参照)。この例ではランクは7段階。トレーニーからC・B・Aスタッフ、セカンド・ファーストリーダー、アシスタントマネジャーという順に、本人の頑張りに応じて評価される仕組みになっている。ランクを名札やスカーフの色で表すなどして、より高いランクを目指させる手法をとっている企業もある。ここでは850円をベースの時給とし、基本的に10円ずつアップする。セカンドリーダーの時給が30円アップとなっているのは、セカンドリーダーの中に3段階あるためである。P/Aはたとえ10円でも時給が上がれば達成感を感じるもの。このような明快なシステムがP/Aに目標を持たせ、やる気を出させる。もちろん業種によって教育時間やキャリアは異なる。業種に応じた時間やステップ、地域に応じた時給など、それぞれの状況に合わせて変えながら使用していただきたい。(ちなみに飲食店の平均的な初任時給は、首都圏で868円、関西圏で804円というデータが出ている:飲食店経営2008年12月号参照)

ランクアップ制度のトレーニングシステム

ランクを上げるには、訓練でスキルを向上させる必要がある。トレーニング内容や方法などにバラツキが出ないよう、トレーニング責任者を明確にしたい。Aランク以上の人が担当制で新人教育にあたるシスター制度を導入している企業もある。教えることで、責任者もまた成長するのだ。トレーニングは、ランクごとに掲げられた目標達成を目指して行う。セカンドリーダー以上のクラスになると、作業指示ができる、オープン・クローズ作業ができる、店長代行業務ができるといった、高いマネジメントレベルが求められるようになる。セカンドリーダー以上のメンバーと店長、社員で「マネジメントチーム」を形成し、毎週ミーティングを実施している店もある。話し合いの内容は、店の最近の問題点やクレーム対策、教育やトレーニング等々、マネジメント全般にわたる。P/A上位ランクだけでマネジメントチームを作り、自発的にミーティングを行っている店もある。本誌(今月号)の「実力店長はこここが違う」で紹介しているヒッコリー全店では、インストラクターと呼ばれるアルバイトリーダーが集まってコンテストの企画やキャンペーンの方法などを話し合い、各店舗で実践している。店長からの指示や命令ではなくキャスト自ら考えて行動するので、やる気も徹底力もアップする。また、あるチェーンでは、頑張った人に対して時給以外に毎月手当を支給している。シフトに貢献したで賞、パーティー獲得したで賞、アルバイト紹介料などだ。店長の裁量で1000円から1万円まで出せるというユニークなものだ。参考にしてみては?企業の教育担当者やスーパーバイザーの皆さんには特に、より明確なシステムを確立するために、このランクアップ制度例を参考にして、ランク別の詳細なチェックリストや自社に合ったトレーニングプログラムを作成することをお勧めする。  さて、あなたの店のP/Aランク状況はいかがだろうか。下位ランクの多い店なら新人ばかりがうろうろしていることになるし、上位が多ければ安定したオペレーションが実現できているだろう。セカンドリーダー以上のP/Aを多く養成していただきたいものだ。

キャリアチャレンジシートでランク決定

ハウスルール基準、行動基準、ホール・キッチン評価、マネジメント評価などを各20項目作成し、本人と店長とで総合点を出してランクを決定する方法もある。例えば、ハウスルール基準15点、行動基準12点、ホール評価12点、キッチン評価10点、マネジメント評価5点なら、合計54点で「Cランクに該当」となる。本人と店長との誤差はよく話し合い、店長が指導する。いずれにせよ、大切なのは明確なスキル基準を作ることだ。実力店長シリーズで取材したある店長は、時給をオペレーションとホスピタリティの2種に分けて決定していた。時給1100円(オペレーション時給500円+ホスピタリティ時給600円)の、「スター」ランクのP/Aのレベルを紹介しよう。オペレーション内容は、

  • 常に笑顔で対応でき、10組以上のお客様をお待たせすることができる。
  • おすすめメニューの販売を80%以上の確率で成功させることができる。
  • 新人教育ができ、一人前のウェイターを育てられる。 ホスピタリティ内容は、(1)1日2組以上のお客様が会いにくる。 (2)感動サービスの具体案を5つ以上持っている。(バースデー・記念日の演出など) (3)常連のファンが100人以上いる。


「スター」ランクのアルバイト事例

上記は、あるファーストフードの「スター」ランクのオペレーション&ホスピタリティレベルだが、そんな「スター」P/Aの具体的な仕事ぶりの一例を紹介しよう。自宅で夜遅くまで一生懸命何かをしているのが気になった母親がそっと部屋をのぞくと、何やら企画書を作成しているのだ。今月の売上予算が未達成になりそうなので、駅前でクーポン券を配布しようという企画。もちろん自らの発案だ。クーポン券の回収率から売上アップ予測、費用対効果まで考えてクーポン券の発注申請書を書き、店長・スーパーバイザーに提出するのだという。自宅での作業だから、当然時給は支払われない。そこにあるのは店のために自分のできることをやろうという、ひたむきな想いだけだ。P/Aもここまでくると、もはやミニ経営者である。これまでに他にも、このP/Aに負けない優れたレベルのP/Aを実際に何度か目にしてきた。以下はそのほんの一部だ。

  • 常連客を100人以上持ち、お酒やメニューの好み、出身地や趣味まで覚えているP/A
  • QCサークルで店の現状を分析し、ホスピタリティサービスのマニュアルまで作成するP/A
  • 世界ピザ職人選手権大会で優勝してしまうP/A

スーパー店長の指導力と明確なランクアップ制度によってP/Aを戦力化すれば、このようなスーパーアルバイトが誕生するのである。あなたの奮起に期待する!

※飲食店経営 8月号特集コラム

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