ホスピタリティー・感動のサービスが実現する時

ザ・リッツカールトン大阪に学ぶ

これから連載シリーズで、感動のサービスについて考えていく。今回はその第一回目。日本を代表する超一流ホテル「ザ・リッツカールトン大阪」のサービス例をご紹介しよう。

以前、あるアナリストが日経MJに自らのリッツ宿泊経験に基づいた感想を投稿した。それによると、滞在の折には部屋まで案内される途中でいつも従業員とちょっとした会話を交わすそうだ。あるとき好きな食べ物について雑談した。オレンジが好きと話したところ、それ以降、宿泊する度に部屋にはオレンジを主とした果物が置かれているという。

また別の機会に、何を着て就寝するかという話題になり、パジャマと答えると、次からオレンジに加え、クロゼットにパジャマが用意されるようになった。さらに深夜に到着した時、日経新聞の夕刊を届けてくれるように頼んだところ、それ以降、泊まる部屋の中にはオレンジとパジャマと、必ず日経の夕刊がある。

またあるとき、風景はどんな感じが好みかと、これまた自然な会話の中で聞かれ、朝日が見える景色が好きだと返事をすると、その後部屋は必ず東向きなのだ。

部屋へ向かう途中の短い会話の中で、従業員はさりげなく顧客の嗜好を聞き出し、そのデータを蓄積しているわけだ。顧客自身がそれと気づかないほどの自然な接客には脱帽する。

そのアナリストの友人がリッツまで近隣のホテルからタクシーを利用し、近すぎるとの理由で運転手に文句を言われたことがあるそうだ。タクシーを降りたときの不愉快そうな表情を見て、リッツの従業員はすぐさまその友人に事情を尋ねたという。従業員の対応は速やかだった。即座にタクシー会社と運転手に苦情を述べ、友人に対しては丁重にその経過とお詫びの連絡をしてきたのである。非の打ち所のない究極の顧客サービスだ。

もう一つ、別のエピソードをご紹介しよう。

あるとき、お客様が客室に眼鏡を置き忘れてしまった。リッツカールトンでは通常、忘れ物を直接届けるサービスはしていない。けれどもこのときの担当スタッフは、お客様の状況を考えて、宅急便で送るよりも直接お届けしたほうがよいと判断し、新幹線に飛び乗ったのだ。数時間後に眼鏡はお客様のもとに戻り、大変感動していただいたという。このお客様は必ずリッツカールトンの生涯顧客になるだろう。

エンパワーメント(自分で判断し、行動する力)という言葉がある。リッツでは、スタッフ一人ひとりがお客様に対して柔軟性を持って行動できるよう、一回あたり2千ドル(21万円)まで、自分で判断して使用できる基準額が定められている。エンパワーメントを大切にしているのだ。目の前でお客様が困っていて早急に対応しなければならない場面では、上司の判断を仰いでいる暇はない。手続きより行動が先なのだ。これを実行しているところがリッツカールトンの大きな強みである。

私の近著、「感動のサービスが実現する一瞬」(中経出版)をお読みになると、もっと詳しくわかります。(笑)

次回は愛と感動のレストラン「カッシータ」についての、私自身の体験談をお送りする。お楽しみに!

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