ホスピタリティー・感動のサービスが実現する時

一人ひとりのお客様に人生のストーリーがある「全日空ある機長(キャプテン)の話」

昨年、筆者が全日空に取材に行ったときの話である。ベテラン客室乗務員から 聞いたある機長のことで、いまでも客室乗務員に語り継がれている話である。

そのキャプテンは、お客様を迎え入れるとき、見送りをするとき、一人ひとり のお客様に深深と頭を下げる。「いらっしゃいませ」 「ありがとうございました」 一般にキャプテンは送迎の場に出てこないものだ。現在はハイジャック防止などの理由でそのようなあいさつやコックピットへの立ち入りを行うことはないが、彼は当時、率先して行っていた。

後輩の副操縦士がキャプテンに聞いた。「どうしてあのように一人ひとりのお客様にあいさつされるのですか?」そのときキャプテンは自らの体験を語った。ある日、国内線で羽田に着陸したときのこと。キャプテンは空港のターミナルビルの屋上で「○○先生大歓迎」と書かれた横断幕を掲げている大勢の子供たちの姿を目にした。

航空機が駐機場にとまると、キャプテンはすぐチーフパーサーに伝えた。「キャビンに○○先生がいらっしゃったらお呼びしてください」コックピットに先生を迎え、窓を開けて指をさして声をかけた。「あそこに、生徒さんがいますよ。」先生は、平常ならお客様が使うはずもないコックピットの窓から上半身を乗り出して手を振った。コックピットの窓からは目立つものだ。屋上の子供たちは大歓声を上げて喜んだ。キャプテンは、先生と生徒のあたたかい交流に思わず胸を熱くしたのであった。

おそらくその後、師弟たちは手を取り合って再会を喜んだに違いない。 このシーンに接して以来、キャプテンはお客様一人ひとりにかけがいのない人生があり素晴らしいストーリーがあるのだと思うようになった。「それぞれの分野で活躍していらっしゃるお客様一人ひとりに対し、尊敬の念とお礼の意味を込めて、キャプテンとしてごあいさつするのは当たり前だと考えているんだよ」そうキャプテンは後輩に伝えた。

それぞれのお客様にそれぞれの人生がある。その一人ひとりに尊敬の念とお礼の気持ち持つ。これは、接客サービスに携わる人が最も基本とすべき心構えではないだろうか

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