特別編集記事

教育部は、現場の強力なサポータになれ!

人材採用が困難になった、採用しても2~3年で辞めてしまう…近頃そんな話をよく聞く。最近の離職率データによると、3年以内に大卒入社の人の36.5%(全産業)が辞めているが、これは10年前の1.5倍だ。外食企業では上場チェーンでさえも40%以上で、50%を超える企業もある。若者は忍耐不足になったし、離職に対する社会全体の考え方も変わった。辞めないスタッフを育成するにはどのような仕組みが必要なのかを、じっくり考えてみよう。

強い教育部のつくり方 7つのポイント

職場環境の改善が最優先
ある調査によると、人が仕事(企業)を辞める5つの要因は、以下の通りだという。

  • 自分への評価が低い
  • 休みが少ない、時間的な余裕がない
  • 給与への不満
  • 経営者への不信感
  • 自分の未来が見えない

仕組みづくりの前に、まずは職場環境を何とかしなければならない企業が多いようだ。ハードワークが当たり前、アルバイト不足のためサービス残業や休日返上も毎度のこと、これでは多くの若者は逃げ出したくなる。大手でも休日は月5~6日程度という実態だが、完全週休2日制の確立を急ぎたいものだ。 作業環境の改善も重要。早く楽に正確に作業をするためのマニュアル整備、キッチンの快適性(室温や湿度)や動線の改善など、新人が短期間で作業に慣れる環境づくりが急務だ。
社員教育体系
社員教育は、次のような目的で行われる。

  • トップの方針を全店・全員に明確に伝え、徹底させる。
  • 専門的な知識や技術を体系的に習得させる。
  • 階層別研修と課題別研修をさせる。
  • ボトムを引き上げ、組織のレベルを高める。
  • トップクラスの社員を教育し、各部門のリーダーとして育成する。
  • OJT、集合教育、自己啓発を推進し、やる気を引き出す。


(1) 自社の教育機関「○○大学」をつくれ!
○○大学や○○アカデミーを自社組織内につくり、新人や階層別教育を行って成果を上げている企業がある。理念研修からトレーニングセンターでのOJT、チェーンストアの理論武装まで、定期的に、かつ一貫して行うことで、企業へのロイヤリティが高まる。自分自身のキャリアビジョンも見えてくる。現在、外食No.1ブランドイメージが高いのはスターバックスコーヒーだ。スタッフがいつも生き生きと楽しそうに働いているのは、アルバイトを含めて全員が24時間の本部研修を受けていることと、「ファシリテーター」という資格を持った教育担当者(スタバの遺伝子を伝える伝道師ともいわれる)がしっかりとトレーニングサポートをしていることによる。

(2) 表彰制度でヒーローを見つけ出せ!
現場で活躍する従業員を発見し、ヒーローとして表彰する仕組みをつくる。優秀店長、今月のMVP、新人賞、ベストアルバイト、各種コンテストなど、社内コンベンションをはじめあらゆる機会を通じて表彰していく。普通の社員をスターに変えるのだ。東京ディズニーリゾートには、ファイブスターカード(SV以上が渡す称賛カード)、スピリット・オブ・東京ディズニーリゾート(キャスト全員が投票で選ぶMVP)がある。スポットライトを浴びる機会が多いほど、モチベーションがアップするのだ。

(3) 店長会議で教育せよ!
月1回程度の店長・副店長会議では、トップの方針や営業部の政策、アンケート調査結果や成功事例報告、教育部による集合教育、サービス研修等々、店長に刺激を与える各方面からのサポートが必要だ。筆者は実務時代に100人の部下店長を抱え、組織の「2:6:2の法則」を日々実感していた。2割の優秀な店長が企業全体をリードし、6割が普通に仕事をこなしていたが、残る2割は不適格という感が拭えなかった。重要なのは真ん中の6割だ。この6割の店長にどうやって火をつけるか、試行錯誤したものだ。要するにこの人たちは刺激を与えることで伸びていくのだ。優秀な人が3割、4割、5割になれば、全ての面で大きな変化が表れる。店長会議で店長を刺激しよう。筆者のような外部コンサルタントを使って定期的に研修を行うのも一つの方法である。

(4) 社内報で情報の共有化を図れ!
店舗数が増えはじめると、本社と各店舗とのコミュニケーション不足も生じやすくなる。これは毎月の社内報で情報を共有化することでかなり解消できる。トップマネジメントのビジョン、店長の改善提案、新人紹介をはじめ、スタッフの冠婚葬祭や誕生日などを掲載するのもいいだろう。北海道和洋菓子店「六花亭」では日刊の社内報を発行。全55店舗500人以上のスタッフから届く1人1日情報のすべてをトップが毎日チェックし、印象的なものを選んで翌日の社内報に載せる。なんとB4で12枚。毎日全店舗に届けられ、全員が読む。18年連続しで発行し、6500号を突破した。継続が良き企業文化を醸成するというお手本だ。

(5) カウンセリング制度で個人面談を実施せよ!
新人は入社3年までは定期的な面談が必要。教育部で毎月全員に対してカウンセリングを行い、個人の現在の課題や問題点を一緒に解決していこう。ある飲食チェーンでは新人時代から個人面談ファイル(カルテ)をつくり、継続的に活用している。成長の記録が残っているので、店長が替わっても面談がしやすい。ぜひ参考にしてほしい。

(6) ダイレクトコミュニケーションで経営意思を浸透させよ!
200~300店舗クラスになると、トップの意思伝達が弱まる傾向が見られる。成長チェーンではたいてい経営方針発表会や社長報告会を実施して、経営意思の浸透を図っている。定期的にトップに直接対面して報告ができるようなコミュニケーションの場も必要だ。トップが自分の名前と能力を知ってもらい、期待されていると感ずれば、やる気は倍増する。

(7) 自由な企業風土と自立型社員を養成せよ!
リクルートという企業は、自由な企業風土を武器に高収益を上げ、多くの優秀な人材を輩出したことでも知られる超優良企業である。社長に対しても堂々と意見を言える企業文化が創業当初から成立していたようだ。その成功の要因の一つに、「プロフィットセンター制」(PC制)と呼ばれるマネジメントシステムがある。会社の中に小さな会社をたくさんつくり、それぞれに大幅な権限を委譲したことで、上からの命令ではなく社員一人ひとりが自発的に仕事をする風土が生まれ、経営者たちが育った。(リクルートのDNAより)自立型店長・社員を養成するために、教育部が積極的にサポートしたいものだ。意思の伝達、コミュニケーション、情報の共有化、刺激を与えてやる気を促すサポート。どれ一つとっても、そこには「こころ」というものが介在する。愛情や信頼と言ってもいいだろう。そういうものが感じられなければ、人は辞めていくに違いない。GE社のジャック・ウェルチは、数十万人を率いるトップになっても、初めて一人の部下を持ったときとリーダーシップのあり方は同じだと言っている。彼は仕事だけでなく人生上のパートナーとして部下を迎え、家族ぐるみで親交を深めていい仕事をこなしていった。愛情が従業員の定着率を高める。これを肝に命じて、現場を強力にサポートする体制をつくっていこう。

企業風土チェックシート(チェックシート)

  • 従業員はエネルギーに満ちあふれ、やる気が全面に
  • 従業員はこの企業で働くことに大きなやりがいと誇りを感じている。
  • トップからP/Aまで、顧客にしっかり目が向いている。
  • 従業員全員の間で情報が共有化されている。
  • トップマネジメントは現場をひんぱんに訪れ、従業員に声をかけている。
  • 従業員は企業のミッション・ビジョンを充分に理解している。
  • 社内報や本社からの文書は、従業員に役立っている。
  • 従業員は表彰制度を通じて、常に励ましや称賛を受けている。
  • 企業全体で学習することが重要視されている。
  • 卓越した成果は社内で確実に認知され、称賛を受けている。
  • 従業員とトップマネジメントとのコミュニケーションは常に良好である。
  • 自由に発言できる企業風土が醸成されている。


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