特別編集記事

実力店長への道 ~5つの要素と7つの実行法~

「実力店長はここが違う」の連載もすでに5年。フードサービス業に携わる全国の皆さんに微力ながらも精神面・技術面で活力を提供できればと思い、シリーズを継続してきた。今回、これまでに取材した60人の実力店長について振り返り、優れた共通点や実務ポイントなどをまとめてみた。日々の店舗運営に活かしていただきたい。

実力店長に共通する5つの要素

1.EQ(心の知能指数)が高い
EQとは相手の気持ちを感じ取る能力を数値で表わしたもので、心の知能指数、または感情指数と訳される。実力店長全員に共通するのがこのEQの高さだ。彼らは感情が豊かで部下への思いやりにあふれ、店の雰囲気をより良くする力を持っている。雰囲気が良ければ顧客満足度もアップし、売上も上がる。筆者は取材中に彼らが何度も「自分の子どものようにアルバイトのことが大好き」と語るのを聞き、人柄の良さや情熱に心を打たれたものだ。また、笑顔が素晴らしくて明るく前向きな性格というのも実力店長の共通点だ。店長の笑顔はP/A(パート・アルバイト)にも伝染する。店長の笑顔が素晴らしい店では、スタッフもまた素晴らしい笑顔でスーパーフレンドリーな対応をしている。

2.コミュニケーション能力があり、ほめ方・叱り方がうまい
心理学者W・ジェームスは「人間は皆、認められることを渇望して生きている」と述べている。人は常に他者に認められたいと思っているのだ。ほめられることでP/Aは自信を持ち、その店で働くことにやりがいを感じる。「ほめる」「認める」「励ます」を常に心がけたい。もちろん、時には厳しく叱ることも必要。同じ失敗を繰り返したり、仕事に慣れて心の鮮度が失われ、やるべきことが徹底できなくなったら叱るべきだ。「五つ教えて三つほめ、二つ叱って良き人とせよ」とは二宮尊徳の言葉。長所を認めながら叱るのがポイントで、叱った後も「君らしくなかったぞ。明日からまたいつものように頑張ってくれよ」と、フォローを忘れないこと。部下を想う気持ちと信頼関係があれば、厳しく叱っても大丈夫だ。

3.良いと思ったことは「すぐ実行する」行動力がある
仕事ができる人とは「すぐに実行する力」のある人のこと。店舗運営にとって最も重要なのは「P・D・C・Aのマネジメントサイクル(プラン・ドゥ・チェック・アクション)を回すことだが、プランのみで終わる企業がいかに多いことか。1日10件以上の外商活動を1年以上続けた店長、お客様の名前を300人以上覚えている店長、良いと思ったことはすぐ実行し、結果を出している実力店長たちを見習いたい。あなたも、お店のためになると思ったことを今日から実行しよう。そうすればあなたのお店は確実に変わり始める。

4.優れたリーダーシップがある
部下の教育は店長の最も重要な仕事。店長は最高のトレーナーかつプロデューサーであるべきだ。店長が教育に時間と労力を費やすほど優れた人材が育ち、フレンドリーで質の高い接客ができるようになってリピーターが増え、客数が伸びていく。店長に求められるのは、部下一人ひとりが持っている強みを最大限に引き出し、目標に向かって活かせるよう導く力だ。携帯メールを活用して部下との情報交換をしている新任店長のもとに、ある日アルバイトからこんなメールが届いた。「店長が来て以来、お店がみるみる変わっていくのが私にもわかります」…店長冥利に尽きる言葉だ。店長のリーダーシップ次第で、P/Aもお店も変わっていくのだ。

5.夢、ロマン、誇りがある
優秀な実力店長は、将来への夢、ロマン、仕事に対する誇り、サービス業を愛する心を持っている。彼らは例外なく志が高い。「フードサービス業は、食とサービスを通じて人を幸福にするビジネスだ」と語る。現在の企業に貢献して要職あるいはトップを目指す店長、独立してオンリーワンの店を持ちたいという店長もいた。立ちふさがる壁や困難を乗り越えさせてくれるのは志の高さに他ならない。目標を持ち、夢に日付を入れて具体化しよう。達成は可能だ。夢を持つことで、明日からのあなたの行動が変わるはずだ。

実力店長になるための7つの実行法

1.質の高い人材を採用
サービスの質を左右するのは人の質だ。店の質の高さは人材採用時点で7割方決まる。まずは質の高いP/Aを採用し、教育・訓練によってさらにその質を高め、最強のチームを作っていくのである。実力店長たちの平均P/A採用率は20~30%とかなり厳しい。ある優秀な女性店長は「採用の基準を下げたくない」ときっぱり語った。面接だけでは判断できないから採用率を50%にし、1ヶ月間の仮採用期間を経て30%程度に絞っている店長もいた。面接では第一印象を重視したい。そして自然な笑顔、目の輝き、人に喜んでもらうことが好き、人柄の良さ、機転が利く、などを採用の基準にしよう。ちなみに東京ディズニーリゾートでは「その人と一緒に働きたいと思うか?」が採用のカギとなる。

2.理念・躾・教育訓練の徹底
優秀な店長は研修初日にしっかりと理念教育を行う。お店はお客様をリフレッシュさせ、元気を与えて送り出す場だ。リズム食品の店長はP/Aが心のコップを上向きにして良いことをどんどん吸収できるようにするため、「はい!」という素直な返事を徹底的に練習させている。ドトールコーヒーの店長はP/Aとの笑顔のキャッチボールをしている。目元、口元に注意し、向き合って何度も練習するうち、自然な笑顔が身に付いてくる。P/A自身にデイリーチェック表で本日の目標設定をさせているのは牛角の店長。デイリートレーニングを徹底させ、抜き打ちで商品知識やオペレーションのテストをしているのはケンズダイニングの店長だ。また先月号で紹介した和食えんのように、商品知識を完璧にマスターしない限り接客デビューをさせない店長もいる。一流ホテルでは、教育を1日休むだけで昨日よりもレベルが下がってしまうといわれる。毎日欠かさぬ徹底したトレーニングが、卓越したサービスを生むのだ。

3.具体的で明確なP/A目標を設定
今月や今日の店舗目標はもちろん、P/A個別の目標も重要である。毎日の朝礼時や夕礼時に店長から店の目標を発表し、P/Aの本日の自己目標を発表させよう。例えば「お客様の目を見て笑顔でご挨拶します」というように、目標はシンプルで分かりやすいことが重要。がんこの店長はP/A一人ひとりに毎月の自己目標や方針を「目標管理シート」に記入させ、全員の前で進捗報告させており、このシートに基づいて個人面談も行っている。明確な店舗目標を掲げて全員に徹底させる、そしてP/Aに個別目標を持たせる。このようにして店全体が日々進歩していくのだ。

4.P/Aの強みを最大限に引き出す
実力店長の取材中に何度も出てきた共通の言葉は「P/Aの良さを引き出すのが店長の仕事」。えんの店長は「笑顔が素敵、調理が丁寧、電話応対が上手など、人によって良さは違いますが、目指すものは同じ。その人の強みを活かして、お客様に最高のサービスを提供することです」と語っている。三間堂には、店内ナンバーワンの得意分野を持つP/Aが大勢いて、呼び込み名人、気配り名人などと呼ばれている。女将は彼らの得意分野を見つけ、伸ばし、やる気を高めさせている。また華美の女性店長は、レジ・エスコートを優秀な3人に絞り、予約の対応から来店時のお迎え、席へのご案内、お見送りに至るまで徹底教育をすることで、売上を向上させている。

5.ロイヤルカスタマー(常連客)を創る
売上の8割は上位3割の顧客で作られるというデータがある。あなたのお店では常連客をどれだけ認識し、対応しているだろうか。 モンスーンカフェの店長は「お客様認識ノート」に固定客情報を毎日記入し、それをスタッフ全員で共有している。料理や飲み物の好みから趣味や出身地などのちょっとした話題に至るまで、全員が分かった上で対応できるのだ。またプロントの女性店長は「お客様との会話を増やし、自分のお客様をつくろう」とP/Aに呼びかけている。50人以上の常連客を持つP/Aもおり、毎日のように来店される超優良顧客もいる。今月号に登場する夜上海の店長も「自分の担当エリアが自分のお店」だとP/Aに認識させ、それがお店の財産になると語っている。

6.一にも二にもコミュニケーション
店内の問題はすべて人に端を発するといわれる。部下が育たないのもP/Aが辞めるのも、コミュニケーション不足が最大の原因だ。実力店長はどのようにコミュニケーションを図っているのだろう。 3店のシニア店長を務める松屋の店長は、携帯やパソコンのメールを活用して104人のP/A全員に連絡や指示を送っている。質問を受けることも多く、内容によっては情報を共有化するため全員に回答を送る。牛角でも携帯メールが活躍。毎日送信者をチェンジしながら、全員に営業報告から問題点、お客様の言葉までを送信し、チームワークを高めている。P/Aも今日の反省や明日への抱負を“頑張るメール”としてみんなに送る。これによって店へのロイヤリティが高まり、責任感や思いの高さも浸透している。また飯場の店長は、「日本一の朝礼」といわれる朝礼でみんなに気合いを入れ、心を一つにして仕事に臨ませている。全スタッフと交換日記をしている店長や、P/Aの悩みや店の問題点を解決するため定期的にP/Aアンケート調査をおこなっている店長もいる。

7.モチベーションアップのための表彰制度・コンテスト
P/Aが誇りを持って楽しく働けるようにするためには、常にその頑張りを認め、正しく評価することが重要。実力店長たちは次のような様々な工夫をしている。

  • アルバイトサミット:月1回の全体ミーティングの後、グループに分かれて「お客様の名前を覚えよう」「提供時間の短縮」など をテーマにディスカッション。多くの意見が出てモチベーションが上がる。複数店の場合、各店から代表を選出して意見をまとめ、発表するのも効果大。企業風土の形成にもつながる。
  • ドリームチーム:各店の最優秀メンバーを集めて最高の接客をする企画。毎月1回ドリームチームが各店を回ることで、各店のP /Aは優れた接客によって店の雰囲気が一変する様子を目の当たりにする。ドリームチームメンバーによる投票でMVPも決定。
  • 店内・社内コンテスト:おすすめメニューなどの販売コンテスト。毎月実施している店(企業)もあり、個人ランキングや店舗ランキングを発表している。全員が同じ方向を向いて頑張ることで、数値が確実に変化していく。このほか、お客様からの評価が高かったP/Aに与えられるピンバッジ、ありがとう券、チャンピオンカード、ベストアルバイト賞、QCサークル大会等々、優れた企業やお店には様々な評価システムがあった。誕生会や卒業式を定期的におこなっている店もある。これらは全てP/Aを評価し、やる気を一層促すための仕組みだ。あなたの店でもぜひ取り組んでいただきたい。


あなたにも必ずできる。目指せ、実力店長!

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