特別編集記事

実力店長になるための、7つの姿勢

フードサービス業に携わる全国の皆さんを精神面・技術面で少しでもサポートしたいという想いからスタートした「実力店長はここが違う」の連載も、すでに8年。これまでに日本を代表する実力店長を100人近く取材してきた。その優れた共通点や実務ポイントをまとめたので、ぜひ参考にしていただきたい。また、店長が自分の強みや弱みを自己評価できるようチェックリストも設けた。皆さんの日々の店舗運営に活用していただけることを願っている。

1.EQが高く、笑顔が良く、常に前向き

実力店長の取材を通じて一番強く感じる共通点が、このEQの高さである。相手の気持ちを感じ取ることができる能力を数値で表わしたもので、心の知能指数、あるいは感情指数と訳される。「あなたのことをいつも気にかけています」というメッセージを相手(P/Aやお客様)に伝えることができる人はEQが高い。筆者は取材中に彼らが何度もP/Aのことを「自分の弟や妹みたいに愛しい」と語るのを聞き、その人柄の良さや部下を思う気持ちにふれ、心を打たれたものだ。  また、笑顔が素晴らしくて明るく前向きな性格というのも実力店長の共通点だ。店長の笑顔はP/Aにも伝染する。笑顔の素晴らしい人は素晴らしい人生を歩めると、筆者は思っている。実力店長は、スタッフが笑顔で働ける環境をつくり、彼らの心を常に高い状態に保たせることができるのである。東京ディズニーリゾートの接客の基本もやはり「スマイル」。これに「アイコンタクト」や「元気」や「積極性」や「フレンドリーさ」が加わって、お客様の気分を最高に盛り上げるのだ。  EQは、努力によって高めることができる。その方法は以下の通り。

  • 意識してポジティブな言葉を使う。 大好き、うれしい、ワクワクする、など。
  • 1日10回、「ありがとう」を言う。 「ありがとう」はEQを象徴する言葉であり、世の中で最も美しい言葉である。
  • 1日1回、誰かのサポートをする。 要するに「一日一善」。ピカピカにトイレを掃除してみんなに気持ちよく使ってもらうのもいいし、取引業者さんをコーヒーでねぎらうことだっていいのだ。
  • 拍手でP/Aを称賛する。お客様からほめられたり、がんばって何かをしたP/Aを、朝礼などで拍手で称賛しよう。拍手は気持ちを高揚させ、やる気を促す。
  • 笑顔で明るく、全員に挨拶する。 「ワンスマイル、ワンメッセージ」を習慣化しよう。笑顔で「先日の試験、どうだった?」「お子さんの風邪は治った?」と一言。こんなちょっとした会話でお店に良い空気が流れるのだ。

営業部長時代、筆者には100人の部下店長がいたが、成績を上げている店長には明確な共通点があった。それは、自分の店とスタッフに対してひたむきな愛情を持っていたことだ。この「愛情」こそがEQの本質である。 (参考文献:「EQ こころの鍛え方」高山直・著)

2.“志”と“誇り”がある

優秀な実力店長たちは、おしなべて志が高い。将来への夢やロマン、仕事に対する誇りやサービス業を愛する心を持っている。彼らはみんな、フードサービス業は食とサービスを通じて人を幸福にするビジネスだと踏まえている。それに携わり続け、その道を極めていくことの素晴らしさを知っているのだ。将来の目標として、現在籍を置いている企業の要職またはトップを目指す人もいるし、独立を目指す人もいる。いずれも簡単なことではない。だがその志の高さこそが、彼らを着実に成功へと導いている。アブラハム・マズローは、人間の欲求は5段階のピラミッド状になっていて、1段階目の欲求が満たされると1段階上の欲求を志すという、欲求段階説を唱えた。その最上段にあるのが「自己実現の欲求」である。自己実現とはすなわち志のこと。極上の人生は、それを望んでその実現に努める人にしか訪れない。あなたも志を高く掲げよう。そうすることで、困難を乗り越えていく意欲も高まる。夢は達成可能。そう考えるだけで、あなたの明日からの行動が変わる。  現在、外食チェーンのNo.1ブランドはスターバックスコーヒーである。日本だけでおよそ750店、世界では15,000店を展開中。日本では今これだけのブランド力を持った企業は他に見当たらない。この勢いはしばらく続きそうだ。筆者はしばしばクライアント崎の経営者から「スターバックスのスタッフはなぜあんなに楽しそうに生き生きと仕事をしているのか?」と尋ねられる。その答えは、従業員アンケート調査結果を見れば歴然だ。「スターバックスで働くことを誇りに思う」という回答が、なんと86%を占めている。仕事への誇りと高い志、これを常に心に刻もう。

3.良いと思ったことは、すぐ実行する

仕事ができる人とは「すぐに実行する人」(行動力のある人)のことだと、筆者は常々思っている。店舗運営にとって大切なのは実行することだ。「P・D・C・Aのマネジメントサイクル(プラン・ドゥ・チェック・アクション)を回すことが重要なのだが、「プラン・プラン」で終わってしまう企業がいかに多いことか! セミナーに参加したり飲食店経営を読んだだけでは何も始まらない。良いと思ったらすぐ実行すべし!次のようなことを実行し、結果を出している店長たちを見習おう。50人のP/Aと毎日交換日記をして教育&コミュニケーションに努めている店長。1日10件以上の外商活動を1年以上続けた店長。お客様の名前を300人以上覚えている店長。常連のお客様のために領収書用の社名ゴム印を用意している店長。そして、気づいたことや問題点をひたすらメモして確実に改善している店長…これはある和風ファーストフードの店長で、QSCからメンテナンス、店舗レイアウトに至るまであらゆる点について気づいたことをメモするのだが、それだけではない。これに優先順位をつけて、一つずつ改善していくのだ。しかもその経過や結果、感想まで、連絡ノートに書き続けるという徹底ぶりだ。やるべきことが多すぎて何から手をつけたら良いかわからなくなりがちな店長諸君、迷っていないでこの店長のようにとことん行動しよう。

4.優れたリーダーシップがあり、店を変える力を持つ

店長の最も重要な仕事は、部下社員とP/Aの教育だ。店長が教育・訓練に時間と労力を費やすほど、優れた人材が育つ。育った人たちが質の高いフレンドリーな接客をすることで、リピーターが増え、客数が伸びていく。ここで店長に求められるのは、パート・アルバイトを変えることができる優れたリーダーシップだ。リーダーシップとは、部下一人ひとりが持っている強みを最大限に引き出し、目標の実現に向けて行かせるように導く力のことである。GE社の元社長ジャック・ウェルチは、初めて一人の部下を持った時のことが忘れられないという。仕事上のパートナーとしてだけでなく、友人として家族ぐるみで付き合った。もちろん仕事はうまくいき、業績もアップした。後に数十万人を率いることになるのだが、そのリーダーシップのあり方は、最初の一人の部下に対するものと全く同じだという。彼は「成功」についてこう語っている。リーダーになる前の「成功」とは、自分が成功すること。リーダーになったら、他人を成功させることが成功なのだと。理想のリーダーに関する、あるアンケートの結果を紹介しよう。「こんなリーダーなら喜んでついていける」という、複数の要素を挙げたものだ。さて、あなたはこの中のいくつの要素を発揮しているだろうか?

  • 正直
  • 前向き
  • 有能
  • ワクワクさせてくれる
  • 大切に思ってくれる
  • 心が広い
  • 応援してくれる


5.ほめ方・叱り方がうまい

心理学者のW・ジェームスは「人間は皆、認められることを渇望して生きている」と述べている。愛の反対語は「憎しみ」ではなく「無関心」であると言ったのはマザー・テレサだ。人は常に他者に認められたい、ほめられたいと思っているのである。ほめられることでP/Aは自信を持ち、その店で働くことにやりがいを感じるようになる。P/Aはいつも店長であるあなたにほめられたがっている。ほめる材料がない時でも、努力を認め、励ますことはできる。もちろん、時には厳しく叱ることも必要。同じ失敗を繰り返したり、仕事に慣れて心の鮮度が失われ、やるべきことが徹底できなくなったら叱るべきだ。部下を想う気持ちと信頼関係があれば、厳しく叱っても大丈夫なのだ。ある実力店長は、部下の長所を見つけて引き出すことに努めているが、叱る時も「君の一番いいところが出ていないぞ。君らしくないな」と、叱りながらも励ますようにしている。筆者は店長セミナーの際にしばしば「“ほめる”と“叱る”のどちらが多いか?」というアンケートをとる。“ほめる”ことが多い人が約7割、“叱る”という人が3割だ。ほめることが多い人は、たまにはビシッと叱ることが重要。逆に叱ることが多い人は、時にはとことんほめることを忘れないように。普段はやさしい店長に厳しく叱られたらかなり心に響くし、いつも厳しい店長にほめられたら本当に嬉しいものだ。いずれにせよ、ほめると叱るのバランスがとれていてメリハリが効いており、その根拠が明確なら、P/Aが不満を感じたり根に持ったりすることはない。
<ほめ方のポイント>

  • お世辞でなく、心からほめる。
  • 小さなことでも具体的にほめる。
  • その時、その場でほめる。
  • 結果だけでなく、努力した過程もほめる。
  • メモ・カード・手紙・メールを使ってほめる。
  • 体全体を使い、スキンシップでほめる。
  • 人を介してほめる。また人前でほめる。(朝礼、全体ミーティング)

<叱り方のポイント>

  • 事実だけを叱り、人格を叱らない。
  • 全員の前で叱らず、一対一で叱る。
  • その時、その場で叱る。
  • キャリアや性格に応じて叱る。
  • 言い分を聞きながら叱る。
  • 感情的にならず、愛情をもって叱る。
  • 叱った後、遠ざけない。


6.小さなことも大切にし、徹底して行う

みなさんは「些事怠らず」あるいは「凡事徹底」という言葉を聞いたことがあるだろう。小さなことでも毎日怠らずに徹底して行うべし、という意味だ。では「1:29:300」という数値をご存知だろうか。これは事故の発生確率を分析したハインリッヒの法則の数値で、1件の重大事故の裏には29件の小さな事故が存在し、さらにその影にはヒヤリとした300件の体験が隠れていることを表している。毎日小事の徹底をすることがいかに大切かがわかる。飲食店の仕事というのは、そもそも小事の積み重ねだ。スタッフ同士の挨拶、徹底したクレンリネス、バックヤードの整理整頓、毎日の朝礼など、決して怠ることなく日々積み重ねていくものだ。神は細部に宿るのである。昨年、ある実力女将のこんなエピソードを紹介したのをあなたは覚えているだろうか。入店2日目でまだバッシングしかできないアルバイトが、お客様に対してひたすら真剣に「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」「失礼します」と挨拶し続けている姿に感動したお客様が、おほめと励ましの言葉をかけてくださった上、チップまで渡してくださったという話である。女将は「誰にでもできることを誰にも負けないぐらい一生懸命やれば、感動を生むことができるということを、15歳の少年から学びました。それ以来私は、どんなに小さなことでも絶対に手を抜かないと決めました」と述べている。小事の大切さをズバリ表す好例といえる。

7.向上心があり、常に自分を磨いている

「実力店長はここが違う」シリーズの取材の際、自分もいつかこのシリーズに出たいと思っていたと、多くの店長が語ってくれた。つまり、本誌を定期購読しているということだ。本や雑誌を読むのをはじめ、彼らは常に上を目指して以下のように様々なことを実践し、自分を磨いている。

  • ビジネス書をはじめ、本を読む習慣がある。
  • 新聞や専門雑誌を読んで、毎日情報収集している。
  • 休日などに繁盛店の見学をしている。
  • 外部セミナーや社内勉強会に積極的に参加している。
  • 業界仲間や他企業との交流がある。
  • デパートや一流ホテルの見学・視察をしている。

最近ベストセラーになった『「1日30分」を続けなさい!』(古市幸雄・著)という本がある。現代人のテレビを見る時間は平均2時間30分といわれているが、そのうちの30分を読書に充てると、なんと年間50冊もの本が読めるという。自分への投資はとても大切だ。たとえわずかでも、自分を高めるための時間を捻出しよう。自分に時間とお金をかけよう。「汝の行動は汝の予言者」という言葉がある。ほんのわずかな日々の努力の差が、何年も積み重ねることで大きな差となる。

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