特別編集記事

実力店長に共通する、8つの実行ポイント

1.質の高い人材を採用

サービスの質を左右するのは人の質だ。店の質の高さは人材採用の時点でおおむね決まる。だからこそ質の高いP/Aを採用し、教育・訓練によってさらにその質を高め、最強のチームを作っていく必要がある。実力店長たちの平均P/A採用率は20~30%で、かなり厳しい。客単価の高い店ほど厳しくなる傾向がある。「採用の基準を下げたくない」と断言する店長や、1ヶ月の仮採用期間を経て本採用を絞り込んでいる店長もいた。実力店長たちの多くが面接で重視しているのは「第一印象」である。いつも多くの人と接しているため、彼らには人を見る目が備わっている。第一印象を大切にしつつ、自然な笑顔や目の輝きがあるか、人に喜んでもらうことが好きか、人柄は良いか、機転が利くかなどをチェックしていく。また、東京ディズニーリゾートでは「その人と一緒に働きたいと思うか?」が採用の鍵となっているそうだ。みなさんもこれらを参考にしてほしい。さらに、こんなことを質問してみよう。「ここ2週間で、あなたの大切な人を喜ばせたエピソードはありませんか?」…これはリッツ・カールトン・ホテルの面接で発せられた質問だ。大切な人を喜ばせることができる人は、その対象が顧客に変わっても同じことができると考えられるからだ。スカウトも有効である。グランドオープン準備中に、他店の優秀なP/Aをスカウトする実力店長は少なくない。筆者も店長時代、他店のナンバーワンP/Aを複数名スカウトした経験がある。「あなたをスカウトしたい」とストレートに告げて説得し、即戦力(リーダー)として活躍してもらった。 )

2.教育訓練の徹底(理念・躾)

学生の少ない郊外店舗など、立地等の諸条件によってはP/A採用を優秀な人材に絞るのが難しい場合もある。そういう店では特に教育訓練が大切だ。店長の仕事は部下を育てること。部下の能力を最大限に引き出して活用することが、店長に求められているのだ。飲食店はお客様をリフレッシュさせ、元気を与えて送り出す場である。この根本的な考えと、自分の店の理念をP/Aにしっかり理解させること。優秀な店長は、これを初日に徹底して教育する。ある実力店長は、P/Aが良いことをどんどん吸収できるようにするために、「はい!」という素直な返事を徹底的に練習させている。またあるコーヒーチェーンの店長は、P/Aとの笑顔のキャッチボールをしている。目元や口元に注意し、向き合って何度も練習するうち、自然な笑顔が身に付いてくるのだ。P/A自身にデイリーチェック表で本日の目標設定をさせたり、デイリートレーニングを徹底させつつ抜き打ちで商品知識やオペレーションのテストをしたりする店長もいる。客単価の高いある和食チェーンの店長は、商品知識を完璧にマスターしない限りP/Aに接客デビューをさせない。一流ホテルでは、教育を1日休むだけで昨日よりもレベルが下がってしまうといわれている。卓越したサービスを生むためには、1日たりともトレーニングを欠かせないのだ。

3.具体的で明確なP/A目標を設定

あなたの店には、その月やその日の店舗オペレーション目標やマネジメント目標、またP/A個別の目標があるだろうか。シンプルでわかりやすい目標を持つのはとても重要だ。毎日の朝礼時や夕礼時に店長から店の目標を発表しよう。そしてP/A一人ひとりからも本日の自己目標を発表させよう。例えばホールでは「お客様の目を見て笑顔でご挨拶します(アイコンタクト)」「中間バッシングをします」など。キッチンでは「ランチは8分以下のスピード提供を守ります」「同時同卓で料理を提供します」などだ。その日の目標をP/A自身にデイリーチェック表に記入させている店長もいれば、毎月の自己目標や方針を事務所に掲示された「目標管理シート」に記入させ、全員の前で進捗報告させている店長もいる。後者は、このシートに基づいて個人面談も行っている。あなたの店を筆者が突然訪問し、アルバイトの一人に「お店の今月の目標と、あなたの今日のオペレーション目標は何ですか?」と聞いた時、明確な答えがすみやかに返って来るだろうか? 店全体が日々進歩を遂げていくために、店舗目標を掲げ、個別目標を持たせよう。

4.朝礼・夕礼・全体ミーティングで情報を共有化

店舗運営力の強い店に共通しているのは、情報伝達力が強いことだ。情報伝達には次のような方法がある。
(1) 伝言板・連絡ノート・幸せボードで情報を共有化
 連絡事項の再確認や、朝礼などに出席できなかったメンバーのために、伝言板や連絡ノートに記入して情報伝達の徹底を図る。もちろん記入するだけでは意味がない。出勤時に読ませる→読んだ後サインさせる→内容を尋ねて確認する→実行できているかどうか確認する→習慣化されているかどうか再確認する…という流れで、順次チェックする必要がある。特に連絡ノートは全員が読んでは書き込みのできる、双方向の情報伝達ツールだ。筆者も店長時代には、深夜に様々な想いを数ページも書き綴っていた思い出がある。こうして連絡ノートが10冊、20冊と積み上げられていく。これもお店の歴史である。中には「幸せボード」というものを掲示している店もある。お客様からのおほめの言葉や素敵なエピソードなど、店でのちょっといい話が書き込まれるのだ。書き込みはボードでも連絡ノートでもかまわない。嬉しいことや感動的なことをみんなで共有するためのもので、店の空気やチームワークが良くなるし、どんなことをすればお客様に喜んでいただけるかを考える機会も増える。ネット最大手のグーグル米国本社では、全社員のデスクの横にホワイトボードが取り付けられている。思いついたことをそこにどんどん記入していくのだ。本人だけでなく周りの人も自由に記入する。そうやって次の新たな一手をみんなで打っていくのであり、その行為が習慣化されている。超先端の企業でさえ、情報の共有と伝達にはアナログな方法が用いられているのだ。
(2) 毎日の朝礼・夕礼を習慣化させる
 朝礼や夕礼は、報告や連絡、教育・訓練、身だしなみや体調チェックを行い、オープン前の緊張感や集中力を高め、仕事へのモチベーションを上げていく場である。朝礼のレベルが高い店と、全く朝礼をしていない店とでは、オペレーションに明らかな差が出てくる。元気いっぱいの朝礼で1日を気持ちよくスタートしよう。
(3) 月1回の全体ミーティングを実施する
 全体ミーティングは、チームワークや店の空気(雰囲気)、店風(社風)を醸成させる上で不可欠のものだ。だが残念なことに最近、全体ミーティングを行う飲食店の店長が少なくなっているように感じる。本誌の昨年11月号「覆面調査のつぼ」でも紹介されていたように、ミステリーショッピングリサーチで高得点を上げている店舗の共通点は、月1回全体ミーティングを行っていることだ。P/Aが中心となって積極的に議論や創造的な活動が行われているのも共通点だ。全体ミーティングの後、アルバイトサミットのような形式でグループに分かれ、「お客様の名前を覚えよう」「提供時間の短縮」「お客様に感動を与えるには」といったテーマ別に、自主的・積極的にディスカッションができるようになれば理想的。ディスカッションを通じて「自分たちの店」という意識が高まり、店舗風土の向上にもつながる。全体ミーティングを行う際は、以下のような目標やテーマを掲げて実施しよう。

  • 店に対する店長の情熱や夢を語る(こんな店にしたいというビジョン)
  • 先月の問題点や今月の改善案の発表(具体的な行動目標)
  • 新しいキャンペーン、新商品、新メニューの紹介と内容説明
  • 懇親会の打ち合わせ(誕生日会、懇親のカラオケ大会など)
  • 今月の新人紹介
  • 今月のベストアルバイト、優秀勤務者の表彰など


5.ロイヤルカスタマー(常連客)をつくる

売上を2ケタ以上向上させている店は皆、「常連客が増えました」と言う。売上拡大の王道はロイヤルカスタマーをつくることなのだ。ある調査によると、売上の7割は上位3割の顧客で作られるといデータが出ている。あなたは「顔と名前が一致するお客様が何人いますか?」という問いに何人と答えられるだろう。筆者は店長セミナーや講演依頼先で、しばしばこの質問をする。平均は30人前後で、ちょっと淋しい。もちろん業種による差はある。法人のお客様が多い居酒屋の店長の場合は100人を超えたりする。筆者が取材した店長のうち、500人を超えるという超実力店長が実に3人もいた。3人とも月商5000万円を超える超繁盛店の店長である。実力店長たちは、次のような方法でロイヤルカスタマーづくりをしている。ヒントにしていただきたい。ある実力店長は、「お客様認識ノート」に固定客情報を毎日記入し、スタッフ全員で共有している。料理や飲み物の好み、好きな席、趣味や出身地に至るまで記入され、全員がそれを分かった上で対応できるのである。またある女性店長は「お客様との会話を増やし、自分のお客様をつくろう」とP/Aに呼びかけ、毎日のように来店される超優良顧客を含めて、何と50人以上の常連客を持つP/Aもいる。さらにある中華専門店の店長は「自分の担当エリアが自分のお店」だとP/Aに認識させ、それがお店の財産になると語っている。また、3年前に筆者が訪問したときの会話を覚えているというフレンチの超実力店長が最近登場したのはみなさんの記憶に新しいところだろうが、それはお客様との会話のほとんどを克明にメモしているからだった。そのメモの量は半端ではなく、2日で2cmの厚さのメモ帳を使い切ってしまうほどだ。仕事が終わってから毎日それを復習し、キーワードを見つけて要点を記憶し、就寝前にもう一度おさらいする。すべてお客様を覚え、常連客として失礼のないおもてなしをするためである。以下はロイヤリカスタマー獲得に向けたチェックリストだ。自己チェックしてみよう。

  • ロイヤルカスタマーづくりの重要性を理解しているか。
  • ロイヤルカスタマーの要望は「天の声」と認識しているか。
  • お客様の名前を聞き出す努力をしているか。
  • お客様をできる限り名前で呼んでいるか。
  • 宴会予約の幹事さんの名前と会社名を覚えているか。
  • 顔と名前が一致するお客様が100名以上いるか。
  • ロイヤルカスタマーの料理や飲み物の好みを知っているか。
  • 手書きの誕生日カード、記念日カードを贈っているか。
  • レジでお客様の満足度を把握し、適切な言葉をかけているか。
  • ロイヤルカスタマー情報のカルテ化が進んでいるか。
  • ロイヤルカスタマーには、よりフレンドリーな対応・話し方をしているか。
  • 最近来店していないお客様に対し、次の手を打っているか。


6.P/Aの強みを最大限に引き出す

「P/Aの良さを引き出すのが店長の仕事」というのは、実力店長の取材中に何度も出てきた共通の言葉である。ある店長は「笑顔が素敵、調理が丁寧、電話応対が上手など、人によって良さは違う。その人の強みを活かして、お客様に最高のサービスを提供するのだ」と語っている。またある実力女将が仕切る店には、店内ナンバーワンの得意分野を持つP/Aが大勢いて、呼び込み名人、気配り名人、笑顔名人などと呼ばれている。得意分野ができることで、P/Aのやる気はますます高まるのだ。たとえば呼び込み名人の場合、女将の目配せ一つで8階の店内から屋外へ出て、通りを行く人々にメニューを見せながら呼び込みをし、たちまち満席にするという。あるビュッフェ業態の店長は、何でもP/Aに自ら考えさせ実行させることにしている。命令するよりも実は大変なことだが、一人ひとりの成長という面でも、店の運営面でも、成果は目に見えて上がっている。またあるアッパーな居酒屋では、お客様にほめられたのを契機にごく普通の女性アルバイトが日毎に輝きを増し、リーダーとして成長していったのだが、店長はそれを見守り、そっと後押ししているのだ。P/Aの強みを引き出してとことん伸ばす。これが店長の非常に大切な務めである。

7.一にも二にもコミュニケーション

店の問題はすべて「人」原因だといわれる。部下が育たないのもP/Aが辞めるのも、コミュニケーション不足によるものなのだ。3店のシニア店長を務める某ファーストフードの店長は、携帯やパソコンのメールを活用して104人のP/A全員に連絡や指示を送っている。質問もひんぱんに受ける。これに対し、情報を共有化するため全員に回答を送ることもある。また、ある焼肉チェーン店の店長も携帯メールをフル活用している。毎日送信する相手をチェンジしながら(店長→副店長→P/Aリーダー→新人P/A)、全員に営業報告から問題点、お客様の言葉までを送信して、チームワークを高めている。P/Aも今日の反省や明日への抱負を“頑張るメール”としてみんなに送る。これによって店へのロイヤリティが高まり、責任感や思いの高さも浸透している。  また、全P/Aと交換日記をしている店長や、P/Aの悩みや店の問題点を解決するため定期的にP/Aアンケート調査をおこなっている店長もいる。2ヶ月に1度ぐらいのペースで、P/A全員のカウンセリングも必要だ。職場環境への適応や教育上の問題点、悩み事などについて一対一で面談し、適切な助言をしよう。また人事異動で新たに赴任してきた店長の場合は、まず最初に全員と個別面談をしよう。一対一の話し合いではプライバシーの問題に気を配る必要があるが、個人的な悩みが仕事に影響を及ぼしている場合は、一歩踏み込んで話し合ってもよいだろう。いずれにせよ、一方的にアドバイスするのではなく、話をよく聞きながら、一緒に解決していく姿勢が重要。店長に話を聞いてもらえた、それだけで本人がすっきりすることもある。ここで、あるセミナーで行われたアンケートについて紹介しよう。「仕事でやる気を出すために、P/Aが上司に望むこと」のベスト5である。

  • もっと私たちとコミュニケーションをとってほしい。
  • 明るい職場、働きやすい雰囲気づくりをしてほしい。
  • 私たちの意見を聞いてほしい。
  • もっと私たちに仕事を任せてほしい。
  • もっと店長自ら勉強して、私たちに教えてほしい。

店長のみなさん、部下はこのように思っているのだ。ぜひ心に留めて行動していただきたい。

8.モチベーションアップのための表彰制度・コンテスト

P/Aが誇りを持って生き生きと楽しく仕事ができるようにするためには、常にその頑張りを認め、正しく評価することが重要だ。東京ディズニーリゾートには素晴らしいサービスをしたキャストに対し、スーパーバイザー以上の幹部がその場で手渡す「ファイブ・スター・カード」というものがある。またキャスト全員で最高のキャストを選ぶ「スピリット・オブ・東京ディズニーリゾート」というシステムもある。そしてリッツ・カールトン・ホテルには、「ファーストクラスカード」(ありがとうカード)と「ファイブスター制度」(年間4人に与えられる栄誉)がある。一流サービス業には必ず、従業員を評価して表彰する仕組みがあるのだ。実力店長たちも、P/Aのやる気を高めるため、次のように様々な工夫をしている。

  • 今月のベストアルバイトを表彰する。(月間MVP)   (今月成長したP/Aや貢献度の高いP/Aを、店長やP/Aの投票で決定する)
  • 6ヶ月(または1年)に1度、最優秀アルバイトを“チャンピオン表彰”する。   (ピンバッジを作り、店の代表者意識を高める)
  • 「ありがとう券」や「スマイルカード」を手渡す。   (感謝の気持ちを書き込んだもの。P/A同士や店長から渡す)
  • 店内No.1の「笑顔名人」「気配り名人」「ご案内名人」などを選んで表彰する。
  • 店舗内接客コンテスト、クッキングコンテストを開催する。
  • 給与明細書に店長からの「サンクスレター」を添付する。   (店長からの、個別の励ましの手紙)
  • P/A責任者には名刺を持たせる。(予約の積極的獲得、自分のお客様の確保)
  • 店舗新聞を作り、お客様にP/Aを紹介する。   (お客様向けの新聞。メニューなども紹介。P/A参加型で作成していく)
  • ドリームチームを編成して、各店のレベルアップを図る。   (各店の最優秀メンバーを集め、全P/Aに優れたオペレーションを見せる)
  • 各種プロジェクトチームを発足させる。

これらはすべて、P/Aを評価し、店全体の活性化を図るための仕組みである。あなたの店でもぜひ積極的に取り組んでいただきたい。

バックナンバーページへ