特別編集記事

売上を向上させた実力店長の成功事例

2008年の日本経済は、米経済の減速、円高、株安、原油高、格差の拡大と定着等々、様々な影響により、景気の後退を懸念させる低迷状態となっています。もちろん外食企業もその影響を免れておらず、消費者の外食頻度の低下や原材料の値上げなどから、売上の伸び悩みに苦しんでいる店舗は少なくありません。だが一方で、連日行列の絶えない店、予約でいっぱいの繁盛店、出店を続けている成長チェーンもあります。その違いはどこにあるのでしょう。今や「去年と同じことをやっていたら、平均的企業(店舗)は10~15%の顧客を失う」と言われる時代です。本特集では、筆者が日頃から目にしている繁盛店の事例や、本誌の実力店長シリーズに登場した店長たちの成功事例などをもとに、どのような手を打てば集客が向上し、売上アップを続けられるのかを検証・紹介していきます。

  • 活気あふれる挨拶ができる(お客様に対してのみならず、従業員同士も)
  • 照り映えるほど店を磨く(クレンリネスの徹底)
  • 元気な朝礼で1日をスタート(チームワークや店の空気を盛り上げる)

この3つが徹底できれば50%は成功です。しかしこれができないと、次の段階に進むことができません。では、基本を徹底させることによって売上を向上させた店長の例を紹介しましょう。まず、提供時間の短縮を実現した、お台場のカジュアルダイニングの例。この店は観光の途中や映画の始まる前などに急ぎで飲食するお客様が多く、スピーディーな提供が求められるため、調理やドリンクを作るスピードを上げる訓練を徹底的に行いました。これによって客席回転率がぐんとアップし、社内ナンバーワンの売上前年比を記録するに至ったのです。あるイタリアンの「粋な店キャンペーン」において“感動比率”で社内トップの座に輝いた店長は、以下の5つをポイントとして、接客の基本を徹底させました。笑顔を絶やさず、フレンドリーで、堂々としていること、それが何よりも大切なのです。

  • 笑顔でファーストタッチ
  • 笑顔で大きくアクション
  • 自己紹介の実施
  • 接客機会は1卓3回以上(挨拶・サジェスト・感想)
  • 接客は落ち着いてフレンドリーに(自信・安心感・信頼感)

笑顔がサービスの神髄であるという、別の例を紹介します。あるカフェ・レストランの店長は、帰り際のお客様に「最高のお店ですね」と言われ、握手を求められたそうです。理由は「ホールやキッチンのスタッフと目が合うたび、いつも最高の笑顔を返してくれたから」なのだとか。この笑顔は「私はいつもお客様に心を向けています。いつでも何でもお申し付けください」というメッセージです。クレンリネスの徹底によって売上前年比110%を実現した、カレーハウスの店長もいます。スタンダードを維持できていない店だったため、基本のQSCと「ニコ・キビ・ハキ」の徹底に努めたのですが、特にこだわったのがクレンリネス。全P/Aが1日1回、汚れの気になる箇所を見つけて清掃・記入する形式の「5分間清掃実施報告書」というチェックシートを設けました。クレンリネスが行き届いて店内が快適になると、気配りができるようになって、接客や盛り付けなど、サービスの質が向上する→売上がアップする、という具合に、正のスパイラルに突入できるのです。

ロイヤルカスタマー(常連客)が売上をつくる

売上を2ケタ以上向上させている店では、必ずと言っていいほど常連客が増えています。常連客を増やすこと、それが売上拡大の王道です。あるカフェレストランの女性店長は、3年連続で売上を伸長させている理由を「人です」と明快に語っています。この店ではP/A一人ひとりにお客様がついていて、常連客が極めて多く、お客様の顔を見ただけでドリンクが作れるほどです。50人以上の顧客を持つP/Aも大勢いるし、ほぼ毎日来店する超優良顧客も少なくありません。50人の顧客を持つP/Aが20人いれば、客数はそれだけで1000人。週2回来店すれば2000人になり、客単価を1000円とすれば、週200万円の基礎売上が成立することになります。常連客をつくることがいかに大切か、よくわかるでしょう。月商5000万円のハンバーグレストランの支配人は、なんと500人もの常連客を覚えているそうです。ディナータイムのお客様の1/3は常連客。「常連のお客様は、常連としての会話を望んでいらっしゃいます」とは、ベテランならではの言葉。常連客は料理だけでなくスタッフとの会話も楽しみにしているのです。そして毎日5~6組のお客様からは“お任せ”のオーダーが入るほど、料理についても信頼されています。また、売上前年比125%増を実現させたアッパーな居酒屋の店長は、「お客様ノート」の活用で常連客を増やしました。この店では個室は担当制なので、P/Aが個々に自分の顧客を持っています。お客様の料理や飲み物の好み、趣味や出身地などの情報を記したノートをP/Aが個別管理するとともに、全員で情報を共有できるようにしています。常連客の来店時には店長やP/Aリーダーが挨拶に伺うなど、店をあげてロイヤルカスタマーにしっかりと対応しています。

外商活動で売上をアップする

外商活動(企業訪問)を積極的に展開して売上を大きく伸ばした、カジュアルイタリアンの店長がいます。販促ツールを作成し、訪問エリアを決定し、複数の人員を割いて訪問活動に明け暮れたのですが、3年間も営業していたのに、お店の知名度がほとんどないことに愕然。相手にもされない日が続いてモチベーションが下がりかけたある日、ついにチラシを見たお客様が来店。その瞬間、スタッフ全員が歓声を上げたそうです。それを機に新規客が増えはじめました。やっと苦労が実ったのです。その後もますます積極的に外商活動を行い、売上前年比は120%アップ、外商売上は300万円を突破しました。毎日出勤前の4時間(12時~16時)、50件の事業所訪問をずっと続けている、居酒屋の店長もいます。飛び込み訪問でチラシを受け取ってもらえる確率は8割。経験を積むほど確率は上がるといいます。その効果は確実に出ていて、大手企業からの宴会予約が増えているほか、クーポン券の回収も毎日20枚を超えます。もちろん売上前年比も2ケタの伸びと好調。行動を起こし、それを継続することの大切さを実感させる好例です。6年も前の取材ながら、外商活動の積極性で私の記憶に鮮明なのが、大阪の大手居酒屋チェーンの店長です。この店長は法人を中心に宴会利用客と積極的に名刺交換をし、翌日必ずお礼に出向いていました。その際に来月のお勧め宴会コースについて説明し、その場で次の予約をいただくこともしばしばだったとか。こうした活動は毎日3時間に及びました。この店長はどの店に異動しても売上前年比を125%以上にしていました。現在は独立して繁盛居酒屋を3店舗経営しています。実力店長として活躍する人は、独立しても成功するのです。セブンイレブンの鈴木敏文会長は、「店長は商人になれ、御用聞きに行け」と店長たちに呼びかけています。昨年のクリスマスケーキの売れ行きは、1店舗当たり155個。他のコンビニは2ケタに届くかどうかといった程度です。これが企業の徹底力の差といえます。人口1万人の北海道のある町のセブンイレブンのオーナーは、クリスマスケーキの予約をとるために9月から戸別訪問をし、もちろん店頭でも宣伝して、なんと3000個を販売したそうです(日本一)。店長のみなさん、もうおわかりでしょうが、楽をして売上を上げるなんてことはできないんですね。

店内コンテストで弾みをつける

社内コンテストや店内コンテストを開催し、従業員みんなが楽しみながらNo.1を目指すことで店を活性化させ、客単価や売上のアップへとつなげている店も増えています。ある中国料理専門店の店長は、毎月2回おすすめ商品のテーマを設定してセールスコンテストを実施し、従業員のモチベーションを上げています。例えばマンゴープリンや紹興酒など、テーマとなった商品の販売を競い合い、数値をグラフ管理するのです。1位の人は全体ミーティングで表彰。賞品はお店へのペアご招待。1位を目指して一生懸命サジェストするので商品知識が高まるのはもちろん、売上アップにもしっかり貢献します。また、あるラーメンチェーンでは餃子おすすめコンテストを実施しました。上位入賞者5名には賞品をプレゼント。全員が徹底的にサジェストしたため、1日60皿ほど出ていた餃子が120皿に増え、月50万円の売上増となりました。「支配人杯ありがとう選手権」というコンテストを企画・実施した、和食チェーンの店長もいます。お客様から「ありがとう」の声がかかった接客スタッフは、その都度1ポイントをゲット。自己申告で事務所に掲示されたグラフにポイント数が記入されます。これは売上そのものを競うコンテストではありません。お客様からの感謝の声の多さを競うものであり、とても素晴らしい案だと私は思います。お客様に呼ばれる前に温かいお茶やや新しいおしぼりを出す、薬を服用するお客様には速やかに水を提供するなど、気配りができるようになります。効果は少しずつ、けれども確実に、店の雰囲気をよくする形であらわれるでしょう。ぜひあなたの店でも実施してください。

ファサードの視認性を上げる

私は営業部長時代、ファサードを見やすく改善することで実際に売上向上へとつなげてきた経験があります。これは、現在でもクライアント先へのアドバイスで成果を上げていることの一つです。ランチタイムの客数を2倍に伸ばした海鮮居酒屋の店長がいます。彼が実施したのは、ファサードへの導入看板を暖色系の色でインパクトのあるデザインに変更して、視認性をアップしたこと。そしてランチメニュー(600円~1000円)を6品から10品に増やし、入口に大きく掲示したことです。これによって刺身が安くておいしいと評判になり、口コミでサラリーマンのお客様が続々と来店。現在、2年連続で120%売上伸長中です。

手書きのDMで心をつかむ

あるしゃぶしゃぶ業態の店の店長は、DMで売上の2ケタアップを実現しています。名刺交換やサービス券の回収、誕生日・記念日の登録などによって連絡先のわかったお客様に対し、毎月お礼状を出しているのです。約400通に及ぶのですが、すべて手書きです。もちろん内容は一通一通違います。お客様と交わした会話を思い出しつつ、ご家族のこと、趣味のことなどを織り混ぜ、心を込めて書いているのです。これを読んで感激したお客様からの手紙が届くこともあるし、本部にお礼の連絡が入ることもあります。もちろん、このお客様が新しいお客様を連れて来店することもしばしばです。外食産業を取り巻く環境は確かに厳しいのですが、このように地道な努力を続けることで着実に成果を上げている例はいっぱいあることを忘れないでください。

わくわくイベントを実施する

私は店長時代、しばしば店の駐車場でミニコンサートを開催したり、夏祭りなどを企画したものです。遊び心のある楽しいプランは、お客様に驚きや夢を与えます。  年商6億を誇る京都の和食レストランを任されている実力店長は、女性会員を募って毎月5回、特別な食事会を催しています。通常のメニューにはないスペシャルな献立を料理長に依頼し、手書きのDMを送るのです。京都の小物をお土産に付けた3000円のコースで、最初は20人程度の会員からスタート。今では口コミで2000人に増え、月50万円を売り上げるようになりました。しかしその波及効果は50万円にとどまることはありません。また、地元の大学生の協力によってミニコンサートが次々と企画されているのも大好評です。  お祭りのように楽しい店内イベントを毎日連発している和食チェーンの店長もいます。オープン先着のお客様にはくじ引きで寿司が当たるし、和食バイキングではジャンケン大会が行われ、勝ち残ったお客様には焼きタラバガニがプレゼントされます。夜は毎晩セリ市を開催。刺身盛り合わせや鯛づくしなどをお客様が競り落とすのですが、これはほとんど原価です。お子様には毎日バルーンアートをプレゼント。また大きな桶にデザートを入れてテーブルを回り、おすすめ販売をしています。昨年の夏には店の入口で毎日昼も夜も、金魚すくいやスーパーボウルすくいなどを実施しました。とにかくお客様に喜んでもらえるサービスを考え、お祭りのノリで店を活気づけているのです。

 集客と売上アップのために工夫を凝らしている実力店長たちの事例をいくつか挙げました。さて、あなたのお店は明日からどんな工夫をしていきますか? 優秀な店長のいる店では、打ち合わせや会議がよく行われています。お客様に満足していただくためのワクワクする仕掛けをスタッフみんなで考え、実行しましょう。そして、「ワー、スゴイ、ウレシイ!」という驚きの連続をお客様に提供してください。  あなたのチャレンジに期待します!

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