特別編集記事

Ⅱ リーダーシップの特質と実力店長の事例

実力店長たちが発揮するリーダーシップの共通点や、実務のポイントをまとめてみた。ぜひ参考にしていただきたい。

1 人を指導できる知識と技術がある

店長の最大・最重要な仕事はP/Aを育てること。人を育てるためには、店長自身がすべての店舗オペレーションに精通していなければならない。店長としてのキャリアが浅く、不得意なポジションがある場合は、早急に克服してスキルアップを図ろう。JR東海フードサービスの店長は、作業上の問題点を改善するため、自ら率先垂範して作ってみせ、スタッフの横に付いてスピード教育をした。提供時間は10分から6分に短縮され、5回転のランチが7.5回転に向上し、売上は2ケタアップとなった。また和食えんのベテラン店長は、商品知識の徹底を図った。素材の産地、料理の作り方や食べ方、味の特徴などをお客様にきちんと説明できるよう、知識教育を徹底。P/Aは朝礼でしっかりメモをとり、日々学ぶ姿勢を身につけている。店長への質問ノートもある。質問の内容によっては、何ページにも渡って回答・説明する。仕事の最中にきっかけを見つけては、随時教育する店長もいる。「お皿を3枚持ってみて」とか「この料理について説明して」といった、現場での生きた教育だ。商品知識や技術を習得することで、P/Aは自信をもって仕事ができるようになり、お客様に対してより良いサービスができるようになるのだ。

2 人の長所を引き出し、活かす能力がある

エデュケーション(教育)の語源はラテン語で、「本来備わっている個々の能力を引き出す」という意味がある。実力店長たちの多くは、P/Aの長所や個性を引き出し、仕事に活かせるよう指導・工夫していた。得意分野ができることで、P/Aのやる気は強まる。ドトールの店長は、P/A全員が掲げた毎月の個人目標を一覧表にしてスタッフルームに掲示。接客の得意なP/Aなら「見本となる接客をして、全員の接客レベルを向上させる」、クレンリネスに自信のあるP/Aなら「常にみんなに店内美化を伝える」というように、自分の強みを最大限に活かせる目標を、P/A自ら打ち立てているのだ。三間堂の女将は、得意分野をもつ「○○名人」を育成。呼び込み名人や気配り名人、笑顔名人など多彩だ。呼び込み名人の場合、空席を女将から目配せされると、8階の店内から屋外へ出て通行人にメニューを見せながら呼び込みをし、満席にするのだ。

3 夢、明確なビジョン、使命感を持っている

取材した実力店長たちは皆、常にP/Aに対し、店のリーダーとしての方針やビジョンを熱く語っている。P/Aたちにこの店で働く使命感や誇りを持ってもらうためだ。きちりの女性店長は「常にお客様のことを思い、チームワークを駆使して、家族のように温かいおもてなしをしたい。大好きが一杯の店にしたい」と語る。ロウリーズ支配人の営業方針は「世界のロウリーズの中で、世界一のホスピタリティ・クオリティを目指そう」だ。いずれもお客様への愛情で高みを極めようとしている。このポリシーが、スタッフに大きな誇りとモチベーションを与えているのだ。お好み焼本舗の休憩室には、勢いのある字で書かれた『女将の夢』が掲示されている。「さあ、いよいよ伝説が始まるよ! ●日本一のお好み焼屋にするのが夢 ●日本一お客様の笑顔であふれかえるお店にするのが夢 ●「味もおいしかったけど、ココの仲間が、人間が【一番商品】やねえ」って言われるのが夢 ●「アツカマしい」ぐらいのお世話を【仲間】にも【お客さん】にも焼くのが女将の仕事(後略)」…熱い想いがほとばしるこの夢に私は感激した。夢やビジョンの大切さが伝わる言葉だ。

4 エネルギッシュで、旺盛な好奇心がある

プラス志向で、エネルギッシュで、勉強好き。これが成功する人の条件だと私は考えている。そういうリーダーに、人は付いていくからだ。カフェ・ラ・ボエムの超実力店長に取材した際の第一声は、「田中様のホームページを拝見し、お会いできるのを楽しみにしていました。遠い所から本当にありがとうございました」。もちろん温かい笑みがこぼれている。月200件以上の外商活動、月100件以上のバースデー予約、売上前年比128%という絶好調の店を担う店長ならではの、非常に前向きなお出迎えだった。この店長は、ザ・リッツ・カールトンやディズニーリゾートといった優れたサービス業について勉強を絶やさない読書家。P/A採用の折には、必ず最近どんな本を読んで感動したかを聞く。感動する心や学ぼうとする気持ちがある人を採用するのだ。

5 人にやる気を起こさせる力がある

店長は、P/Aにやる気を起こさせるスペシャリストであるべきだ。店長が常にP/Aを気にかけてほめ、重要な存在であることを伝え続ければ、必ずそのP/Aは成長する。P/Aのモチベーションが上がるのは、「頑張ったね」「ありがとう」「君のおかげで助かったよ」「早くできるようになったね」「さすが○○君、すごいなー」などのほめ言葉。そういう言葉をきっかけに、心のスイッチがオンになったりするのだ。がんこフードサービスでは、交換日記を店内コミュニケーションやモチベーションアップのツールとして活用している。新人P/Aは毎日のコメントに励まされ、やる気や店へのロイヤリティを徐々に高めていく。サーティワンの店長は、キャンペーンの全国順位を毎日発表し、プラスセールスも促して、P/Aのモチベーションを上げている。目標を持つことで士気が上がり、全国ランキングで常に上位をキープしている。

6 チームワークづくりに優れている

実力店長の店すべてに共通するのは、チームワークが良いことだ。くいもの屋わんの店長は、売上アップの要因はチームワークだと明言。抜群のチームワークで、店の空気感が売上をつくることを証明した。そして、チームが大切だと考える店長自身の分身を、一人でも多く育てることに努めている。MS(ミステリーショッピングリサーチ)の評価が高いとんQの店長は、次の6つをチームワークづくりのポイントにしている。

  • 笑顔の挨拶(店長のほうからいつも笑顔で挨拶)
  • サンキューレター(いつもありがとうという感謝のメッセージ)
  • ありがとうスタンプ(P/Aの素敵な行為に店長がスタンプを押すスタンプラリー)
  • 「クレド」行動の徹底(朝礼で読み合わせ)
  • 全体ミーティング(P/Aの自発的ディスカッション)
  • 月1回の個人面談(楽しく働いているかどうか)

いずれもチームワークを良くするための仕組みである。特にスタンプラリー制度は、ぜひ参考にしていただきたいシステムだ。「成功の9ステップ」の著者ジェームズ・スキナーは、人生で幸せを感じる3つの瞬間について語っている。

  • 自分にとって信じられないほど難しい何かを成し遂げた時
  • 誰かを本当に助ける(幸せをもたらす)ことができたと実感した時
  • すばらしいチームで働けた時

あなたはリーダー(店長)として、難しい仕事にチャレンジし、メンバーを支援しながら、すばらしいチームをつくり上げているだろうか?新店舗での、あなたのこれから3カ月の活躍に期待します!

Ⅰ 店長のリーダーシップにもどる

※飲食店経営 2013年1月号特集コラム

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