特別編集記事

P/Aに自主的な行動を促すコーチング店長を目指そう!

本誌連載(月刊飲食店経営)の「実力店長はここが違う」も150回を超え、時代とともに店長像も進化していることを実感する。最近の優秀な店長の傾向は、コミュニケーション力が高く、チームワークをスムーズに進められる店長、あるいはP/Aのやる気を引き出して自主的な行動を促すコーチング型店長など、“人に強い”ことだ。コーチングとは、人の能力を最大限に引き出すコミュニケーション技術のこと。コーチングができると、QSCオペレーションの安定や売上向上に着実に貢献できるため、これらの技術をこなせる店長とそうでない店長との間には、格差が開きつつある。

コーチング型店長の増加

コーチング型店長の例を紹介しよう。ある和風ファーストフード(丼チェーン)の店長は、オペレーションの最中にしばしばP/Aに対して次のような質問をする。①洗い場の作業をスピードアップするには? ②手が空いたときは何をする? ③料理提供とご案内が同時に起きたらどうする?…など、具体的な内容だ。例えば③の場合、手の空いたスタッフに頼んだり、お客様に一言お断りして待っていただくわけだが、その答えを店長が教えるのではなく、P/Aがまず自分で考え、自ら行動するよう導くのである。あるイタリアンの店長は、毎日少しの手空き時間を縫って「お皿を3枚持ってみて」「このメニューの商品知識を言ってみて」などの課題を投げかけ、1分間OJTを繰り返している。このように、少しの時間でもいいから的確にOJT教育をすることが重要なのだ。また、あるカフェの店長は会計を終えてお客様をお見送りしたスタッフに、「今のサービスは100点満点で何点?」と聞く。スタッフが「80点です」と答えたら、「100点にするには何が必要?」という具合に、より深く聞いていく。こういったことを毎日繰り返すことによって、P/Aは日々自分で考え行動する力を養い、成長していく。ここ数年、こうしてスタッフを育てるコーチング型店長が増加しているのだ。

1 頻繁なコミュニケーションで、信頼関係を高めよう

組織のリーダーにとって一番大切なのは、部下(P/A)に対して関心を持つことだ。「いつもあなたのことを気にかけています」というメッセージがきちんと相手に届くこと、これが人間関係を築く上での要である。一声かけたり笑顔を見せるだけでもいい。日々の忙しさにかまけて、このような基本的な行為を忘れている店長も多いのでは? 店長に関心を持たれていないというのは、P/Aにとって最も辛いことなのだ。ロウリーズの総支配人は、毎日全員に声がけをする。特に新人には「不安なことがあれば話してね」「トイレは大丈夫?」「困ったことはない?」などと、こまめに声をかける。中でも「困ったことはない?」という質問は重要。困りごとにダイレクトかつ確実に対処できるのは、店長(リーダー)だけだからだ。1日1面接(10分間程度)を実施している店長もいる。問題がある時は30分~1時間かけて話し合う。部下の話をしっかり聴く姿勢もコーチングでは重要だ。この店長は主力メンバーとのミーティング回数も多い。店長の想いに共感してもらうことや、一人ひとりのやる気を促すことが目的だ。「P/Aの“声にならない声”をいかに聴き取るかが店長の腕の見せどころ。それができれば店長の仕事は驚くほどスムーズになります」と語っている。

2 店舗目標とP/Aの個人目標を設定しよう

あなたの店では、今月の店舗目標や今日のオペレーション目標、P/Aの個人目標を掲げているだろうか? 目標管理をきちんと行うことで、やる気に満ちた生産性の高い職場づくりが可能となる。あるカフェチェーンの店長は朝礼で、まず店長自ら今日の目標を発表する。例えば「パフェメニューのおすすめ強化」や「メール会員募集の声がけ」など。これを受けてP/Aは、「本日のおすすめを20個販売します」「メール会員を10人獲得します」というように、自分なりの目標を設定して発表するのだ。そして仕事アップ時に結果を報告する。その日の目標をP/A自身でデイリーチェック表に記入させている店長もいる。さらには、毎月の自己目標や方針を「目標管理シート」に記入させ、事務所に掲示して是認で進捗状況をチェックできるようにしている店長もいる。あなたの店を私が突然訪問し、アルバイトの一人に「お店の今月の目標と、あなたの今日のオペレーション目標は何ですか?」と聞いたとしよう。その時すみやかに明確な答えが帰ってくれば、あなたの店はすばらしい店だ。店舗および個別の具体的な目標を掲げて日々トライし、店全体を進歩させていこう。

3 全体ミーティングで、目標づくりに参画させよう

スタッフが仕事をする際の意欲と効率をの関係を表す、「1:1.6:1.6の二乗の法則」というものがある。

  • 1=上司から命令されて嫌々やったときの効率
  • 1.6=命令に対し、納得してやったときの効率
  • 1.6の二乗=自分で計画し、率先してやったときの効率

自発的に考えて行うほうが効率がぐんとアップするのだ。取材した実力店長たちの店舗では、たいてい月1回は全体ミーティングを実施しており、しかもP/Aが中心になってディスカッションをしているところも多い。議論のテーマは「顧客満足度を高めるには、どんなサービスをすればよいのか?」「サービスの20大行動を決めよう」など。店長に指示されてではなく、P/Aが自主的・積極的に議論するため、実行力が非常に高い。できるかぎりP/Aを店舗目標づくりに参加させよう。みんなが目標に共感・共鳴することで、実践への意欲とチームワークが高まるのだ。

4 一緒にやっていこうという店長の姿勢を打ち出そう

古いリーダーシップのスタイルとして挙げられるのは、「俺についてこい型」「何にでも手出しするタイプ」「指示・命令型」「管理型」「統制型」など。これから期待される新しいリーダー(店長)の姿勢は、「環境づくり重視」「スタッフに任せる」「自発的行動を促す」「励ます」などだ。スタッフは共に目標に向かって進んでいく仲間だからこそ、ミーティングを通して目標を一緒に考えたり、コーチングによってP/Aの声を引き出すことが重要になるのだ。「仕事で店長に望むこと」をP/Aに尋ねたデータによると、次のような声が多かった。①もっとコミュニケーションをとってほしい、②明るい雰囲気づくりをしてほしい、③私たちの意見を聞いてほしい、④仕事を任せてほしい …ぜひ参考にされたい。売上を向上させている店長や、QSCオペレーションが社内トップクラスの店長が、それらの要因として第一に挙げるのが「チームワークの醸成」である。ハーバード大学が「成功したマネジャー」について成功の要素を調査したところ、①専門技術5%、②専門知識10%、③感情のコントロール85%(人との接し方、良好な人間関係)…という結果になった。技術や知識よりも、人間性が大きな要素になるということだ。店長(リーダー)の「みんなで一緒にやっていこう」という姿勢こそが、すばらしい店を作っていくのだ。みなさんの2013年の「人間力」に期待したい。

※飲食店経営 2013年1月号特集コラム

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