ホスピタリティー・感動のサービスが実現する時

スタッフの心を美しくする「感謝の手紙」

鳥貴族の村田マネジャーが店長時代にとても大切にしていたのは、スタッフだけではない。スタッフにとって大切な人たち、つまり彼らの家族や友人、恋人たちもだ。そして、鳥貴族で働くことで彼らが人間的に成長するのをその人たちが目の当たりにし、彼らのことを誇りに思ってもらうのも重要だと思っていた。
 村田マネジャーはオープン前の研修でスタッフに、「一番大切にしている人への感謝の手紙」を書かせていた。大切な人に感謝の気持ちを伝えられる人になってもらいたいためだ。彼女が尊敬していた店長が、その気持ちを伝えられないまま亡くなったという、哀しい出来事があったからである。


 いつものように感謝の手紙を書かせていた時、一人の男子大学生が、書きながら涙をはらはらと流しはじめた。地方から東京に出てきて一人暮らしをしているのだが、手紙を綴っているうち、これまで両親の支えがいかに大きかったかを痛感し、涙が止まらなくなったのだ。書き終わっても泣きやまない彼を、店長は思わず抱きしめたという。
 感謝の手紙はそれに留まらない。全スタッフの親からも「鳥貴族の教育に感謝しています。息子をよろしくお願いいたします」「こんな機会を与えてくださってありがとうございます」といったお礼の手紙が、続々と店長の元に届いたのだ。
 さらにこの話には続きがある。スタッフがお客様に自慢したくなる「スゴい村田店長」にも、自分が成長していない、ふがいないと思い悩み、店長としての自信を失った時期があった。彼女は数日間のリフレッシュ休暇を取り、島根県の実家に帰った。帰省した彼女を待っていたのは、「手紙がいっぱい届いているよ」という母の言葉。なんと、アルバイトスタッフ25人全員から、手紙が来ていたのである。
 店長の様子がいつもと違う、少し落ち込んでいるみたいだと、スタッフたちは察していたようだ。自分たちに感謝の気持ちを伝えることの大切さを教えてくれた店長に、今こそ自分たちが感謝の言葉を送ろうと、全員が手紙を書いてきたのだった。
 感謝の手紙は村田店長のご両親にも送られた。「こんなすばらしい店長を生んでくれてありがとう」「私は店長のおかげで人生が変わりました」といった心のこもった言葉を、やはり全員が綴ってきたのだ。
 「ああ、私の悩みなんてホントにちっぽけなことだった」と気付いた彼女は、すぐにでもみんなの顔が見たくなり、休暇を切り上げて店に戻った。
 感動的なエピソードを聞くたびにウルウルする私だが、取材中にあられもなく泣いてしまったのは初めてだ。愛情いっぱいの、本当にスゴい店長だと思う。
 それまで村田マネジャーのご両親は、彼女が東京で居酒屋の店長をしていることを、実はあまり芳しく思っていなかった。だがこの出来事で一変した。うれしいことに、この手紙が仏壇にまつられ、親戚や知人が訪れるたび、ご両親は娘の成長を誇らしげに語ったそうだ。

 「精神と技術」という言葉がある。大切な人に感謝の言葉を伝えて喜ばれること、それは精神(こころ)の豊かさである。それができる人は、対象がお客様に変わっても同じようにできる人だ。それを技術(スキル)という。精神という土台があって、初めて技術が生きるのだということを、つくづく感じた取材である。
 村田オープニングマネジャーの10年後の夢は、鳥貴族アカデミーの学長として活躍すること。すばらしい学長、上級管理職になれると思うよ。大きな感動をありがとう!

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