特別編集記事

外食産業で最も大切なのは人づくり   −「タニザワフーズ」谷澤憲良社長に聞く−

 タニザワフーズ株式会社は、国内トップクラスのメガフランチャイジーである。KFC44店を筆頭に、吉野家、サブウェイ、かつや、リンガーハット、サーティーワン、びっくりドンキー、ピザハット、大戸屋などを、愛知・静岡エリアで93店(外食店)展開し、約100億円を売り上げている。
 経営理念は「我々はチェーンストア作りをめざし、地域社会により豊かな生活を創造することにより成果をあげ、社会的貢献を果す」。さらに、下記3項目が同時に達成されることを基本理念としている。
一、従業員(社員・パートナー)の幸せ
一、お客様の喜び(満足)
一、企業の成長(永続)
 私はこのタニザワフーズにおいて、ビジネスを学ぶ上で非常に貴重な時期である30代に10年間、店長から営業責任者まで務めさせていただいた。その教育は素晴らしかったと実感している。タニザワフーズ卒業生の多くが、FCオーナー、あるいは他企業の役員や上級管理職として活躍しており、みな口を揃えて「タニザワ大学での教えがあって今の自分たちがある」と語っている。それが私たち卒業生にとっての礎となっているのだ。
 同社代表取締役社長・谷澤憲良氏は、「フードサービスビジネスは、教育産業である」を持論とし、教育に心血を注いでいる。そんな谷澤社長に、人材育成について語っていただいた。

1 人材育成企業としてなすべきこと

 「人にはそれぞれこの世に生まれてきた目的がある。生涯をかけてその目的を達成すること、そのために人間性を磨き続けること、それが人の使命です。そして、それをバックアップするのが企業の使命です」と谷澤社長は言う。
 「人の幸せとは、物心ともに豊かになること。専門技術を磨けばより優れた仕事ができて所得がアップし、物質面での充足が得られます。また、専門技術を活かして会社や世の中の役に立てば、心も満たされます。企業には、常に従業員に学ぶ機会を提供し、その人が持っている長所を引き出し続け、社会貢献している実感を味わってもらう責務があるのです」と、繰り返し語る谷澤社長である。

2 生産性を上げて従業員の負荷を軽減

 人手不足、人件費増、遵法対応など、飲食業界は今さまざまな難題に直面している。谷澤社長は現況をどうとらえ、どのように打開すべきだとお考えだろうか。
 「飲食業の大きな問題は、産業化の遅れです。製造業と比べると、労働生産性が格段に低い。仕事がキツいのです。作業の仕組みというものが確立されておらず、作業内容も作業量もマンパワーに頼っています。“ガンバレ精神”でやっているのが現状であり、従業員に大きな負荷がかかっているわけです。これでは雇用問題はなくなりません」と谷澤社長。
 タニザワフーズがファストフードを中心に展開している理由の一つは、他業態と比べて比較的生産性が高いことにある。ファストフードは作業の仕組みづくりが進んでいるため、従業員への負担が少なく、好待遇を実現しやすい。これは、米国の飲食チェーンランキング上位のほとんどがファストフードであることからも明らかである。
 人への負担を減らすには、産業化を進めるためのスぺシャリストが必要だ。まずは、そういう人材を育てなければ始まらないのだ。日本でそれを専門的に学べる大学は少ない。しかし米国では、約150の大学にフードサービスビジネスの学科がある。
 タニザワフーズは現在、名古屋文理大学健康生活学部フードビジネス学科、日本大学生産工学部フードマネジメントコース、千葉商科大学サービス創造学部などに講師を送り、将来の人材づくりをお手伝いしている。谷澤社長ご自身も、長年日本フードサービス協会副会長と教育研修委員会委員長を務め、業界発展に貢献されている。

3、タニザワ大学の仕組み

 タニザワ大学の目標は、価値ある目標を描いて確実に実現していける人材を育てること。「プロフェショナルエキスパート(スペシャリスト)育成」をキーワードに、大きく分けて次の3つの教育プログラムで構成されている。

1、チェーン理論(定型基礎)を3年目までに修得する事を目的とした「チェーンストアシステム講座」
2、パーソナル・ポータブルスキルを身につけるための「目標管理プログラム=3KM」
3、新人からマネジメントサイクルを実践できる人材を育成する「MDP、OJT、OFF−JT」


1は谷澤社長自ら15講座の講師を担当。次のような内容を指導する。
 a.チェーンストアの歴史と現状
 b.マス・マーチャンダイジング・システムづくり
 c.チェーンストア商品の考え方
 d.チェーンストア経営の本質
 e.ストアマネジャーの役割
 f.チェーンストアのマネジメント
 g.店舗開発の基本とショッピングセンターの理解

2のパーソナル・ポータブルスキルとは、ポータブルと名が付く通り、持ち運び可能なスキル、すなわちタニザワフーズを卒業後、他企業においても役立つ汎用的なスキルのこと。コミュニケーションスキルやヒューマンスキルといった人的スキルを身に付ける講座である。
 また目標管理プログラムの意味は、3年後、10年後、20年後の目標を設定して人生の成功を目指すこと。夢に日付を入れることで、夢に終わらせないようにするのだ。私自身もかつてこれを行ったわけだが、25年後の現在、80%を達成している。

3には、2~3年のジョブローテーションで幅広いスキルを身に付けていくことや、毎月の店長会議で各部門責任者が教育していくことなども含まれる。
 MDPは階層別の教育プログラムのこと。以下のようなプログラムがある。

国内店舗クリニック(ストアコンパリゾン)
店長対象。マイクロバスで移動しながら、各ナショナルチェーンのブランド比較(観察・分析・判断の能力を身に付け店舗の改善を行う)や商品調査を行う。たとえば牛丼なら吉野家・すき家・松屋などの商品を食べて比較検討し、ファミレスならガスト・サイゼリヤ・ジョイフルなどの価格と価値を検証。バス内での意見交換はもちろん、レポートも提出する。日本型スーパーマーケットやSCも視察。
海外視察セミナー
チェーンストア先進国のアメリカ合衆国で、消費生活の豊かさ・便利さ・楽しさを実体験する研修。チェーンストア勉強会の成績優秀者が選抜され(毎年6~10人参加)、ロサンゼルスの小売業30社、フードサービス企業25社を視察する。観察・分析・判断したことを10枚程度のレポートにまとめて提出するのだ。この研修に、20代で参加させることに意義がある。経営企画室・アメリカ視察コーディネーターの弓指氏は次のように語っている。「アメリカのチェーンストアが人々の豊かな暮らしをどのように作り上げているのか、TPOSを踏まえて観察するよう伝えています。チェーンストアは富裕層を除く約8割の大衆を対象にビジネスをしています。マス・マーチャンダイジング・システムによって作り出される商品やオペレーションを体験して象徴される国民生活の豊かさを、この視察で実感してほしいと思います」
●6S巡回
本社の監査役がエリアマネジャーや店長と一緒に、店舗事務所、バックヤードのクレンリネス巡回を行う。店内以外のスペースもきれいに磨き上げられる。毎月1回、数店舗ずつ実施している。
メンテナンス巡回
本社管理職、5等級以上(部門営業責任者以上)の15人のメンバーが毎月2回、厨房機器の下部やフィルターなど普段はできない箇所を清掃。谷澤社長自ら高圧洗浄機を扱い、徹底した清掃を実施する。
表彰制度
タニザワフーズには、若手社員が企画に加わってイベントを手作りしていく仕組み(社員イキイキTANIZAWA)がある。その中の表彰制度をご紹介しよう。
社員コンベンション:毎年全社員を集めて行う経営方針発表会と年度目標に対し、活動成果の確認&賞賛の場として行う社員表彰。「タニザワ大賞」「優秀店舗賞」「QSC賞」「優秀マネジャー賞」「新人賞」など、30人以上が表彰される。特にタニザワ大賞は年間通して最も活躍した社員に贈られるベスト表彰。本人には知らせず家族だけに事前連絡され、当日は表彰の壇上で号泣しながら抱き合うという、タニザワ名物の感動シーンが繰り広げられる。
パートナーコンベンション:店舗の最前線で活躍するパートナー(アルバイト、パート社員)の日ごろの労をねぎらって、年1回設けられている賞賛の場。会社の方針や活動状況、パートナーの日ごろの苦労話や前向きな意見を吸い上げる大切な場でもある。表彰や外部講師による勉強会も行われる。
賞賛プレート:日ごろの業務の成果が認められ、表彰された社員・パートナーの賞賛プレートを、店舗内のお客様の目に留まる場所に掲示。功績が公に讃えられる、すばらしい仕組みである。

4、社会貢献活動(MY21推進活動)

 自社の社会貢献活動について、谷澤社長は次のように語っている。「これは社員の徳育につながる活動です。徳を積まないと、人として成長できません。企業も同じです。できるかぎり社徳を磨いていきたいと考えます」
 以下、タニザワフーズの社会貢献活動の一端をご紹介する。
①清掃活動
本社周辺地域の清掃を月1回行っている。1983年に始まり、現在350回を超える。年に1回は各地区別の合同クリーンパトロールも実施。伊賀八幡宮の清掃も毎月1回行う。
②児童養護施設支援(あゆみの箱募金など)
児童養護施設支援のため、全店にあゆみの箱を置いて募金活動を続けている。 1980年以来36回の寄贈となり、累計金額は約2,825万円に。またチャリティーボウリング大会や店舗での食事会招待等も行い、たいへん喜ばれている。
③自然環境の保護
年1回、河川への稚魚放流。伊賀川を美しくする会への協賛で、今年で16回となる。
④地域文化の発展支援
德川記念財団事業への協賛(徳川家康公作文コンクール事務局担当)や、岡崎市立中央図書館内「家康文庫」への文献寄贈。
⑤施設の開放・見学
タニザワフーズ経営のボウリング場を、親子ボウリング教室のため月1回開放。
⑥各本部を通しての支援
食育セミナー(大戸屋)地域の皆さんに向けた食育セミナーを、大戸屋店舗にて年3回実施。またKFCのWFP(国連世界食糧計画)で募金活動も行っている。
⑦業界人材の育成支援
前述したように、名古屋文理大学、日本大学、千葉商科大学にてチェーンストア講座を実施している。

 谷澤社長は、日本フードサービス協会の理事を13年間、副会長を5年間、そして教育研修委員会の委員長を9年間務めた功績を認められ、昨年、藍綬褒章(らんじゅほうしょう)を受章された。フランチャイジー企業の功績がこれほどまでに高く評価されたことは、実にすばらしいことである。
 「人材育成費を削ってはならない」というタニザワ社長の持論のもと、全社を挙げて人材育成に対する考え方を明確にし、タニザワ大学や社会貢献活動を通じて「人徳」と「社徳」を積み上げ続けているタニザワフーズの姿勢には、学ぶべきところが実に多い。全国の飲食企業トップや教育責任者の方々は、ぜひ参考にしていただきたい。

2016年1月号特集コラム

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