特別編集記事

人材が集まる会社はここが違う ~ 人の集まる会社が実践していること ~

 経済の先行きが不透明な時代にあって、飲食業界の採用難は深刻さの度合いを増している。少子化に伴う労働人口の変化(若年層の減少)も、危機的状況に拍車をかけている。2015年12月の有効求人倍率は1.27倍で、24年ぶりの高水準となった。2016年3月卒予定の大卒求人倍率は1.73倍と、上昇を続けている(2月現在)。今後ますます人材確保が難しくなり、人手不足で売上が伸び悩む企業が増えることが予想される。
 知名度も賃金水準も高い大手企業のような採用力を持たない中小の飲食チェーンは、どのようにすれば人を集められるのだろうか。私のクライアント先の採用方法や、取材先の従業員満足を高める仕組みなど、人が集まる会社の実践例を解説していこう。

■経営者のビジョン

 大手飲食チェーンの多くは、全社員に向けて年1回の経営方針発表会を催している。次年度や来期の売上目標、新規出店数、改装店舗、マーケティング戦略、従業員待遇の改善、福利厚生の充実等々、具体的なビジョンを掲げ、私たちの会社は先を見て前進し、成長を続けているというメッセージを社員に表明するのである。社員に対するこういった経営ビジョンの表明は、中小チェーンでも行うべきである。10店舗を展開したばかりのチェーンで働く若い店長が社長の方針発表を聞き、その資料をうれしそうに私に見せてくれたことがある。社員は夢を語る社長についていきたいと思うものなのだ。
 発表会に続いて、社員の1年間の労をねぎらう社内コンベンションを開催する企業が多い。ここでは最優秀店長や優秀店舗、新人賞、永年勤続などの表彰や、成功事例の発表などを行う。全社員で祝うのはもちろん、家族を招いてみんなで讃えるのもいい。感動のあまり涙する人もいる。たくさんのヒーローを見つけてスターにすることで、企業に対するロイヤリティーがますます高まる。

■コミュニケーションWebでの情報共有

 私のクライアント先に、毎年大卒120人、キャリア120人を採用し、社員総数1000人を超える大手チェーンがある。新入社員は本社で1週間の研修後、全国の店舗に配属される。配属先には店長やエリアマネジャーなどの上司はいるが同期はおらず、初めての地と初めての仕事で心細く、孤独感を抱きがちだ。それを少しでも解消する手段の一つとして、Webによる社内情報共有を複数実施している。たとえば社内イントラを活用したメールでの情報共有。本社朝礼での事業部長のメッセージ、全国の店長によるお客様に喜ばれたサービス事例報告、クレーム事例等々、毎日たくさんの情報が共有され、各店の次の一手として活用されている。
 この企業では誕生日メールが2種ある。1つは上司が部下の誕生日を他の従業員に知らせるメール(全社員共有)。これを受けて、50人以上の人が本人におめでとうメールを送る。もう1つは自己開示のメール。誕生日に本人が経歴や家族や趣味、現在の心の状態などなど、自分のことを語る。個人の想いが伝わって、仲間や上司との距離が縮まる。「10年前の上司のほめ言葉が私を変えた」などと書けば、その上司から「誕生日おめでとう。大きく成長したね。君を誇りに思うよ」という返事が返ってきたりするのだ。
 この企業のトップは、2~3人の従業員とともに家族経営のような雰囲気ではじめた1号店のイメージを、1000人を超える企業になっても自社に対して持ち続けている。規模が大きくなっても会社は身近な存在で、自由に意見が言える風土を築きたいのだ。人が集まる会社には、このようなすばらしい企業文化やオープンな社風があり、さらに社員を元気にする様々な仕組みがある。

■企業の成長とグッドカンパニーへの進化

 採用難の時代であっても、勢いよく50~100店を展開する急成長チェーンには優秀な人材が集まってくる。前述した私のクライアント先も、まさにそういう会社である。その社長に伺ったところ、出店が停滞している大手チェーンや、業績が低迷気味のチェーンから転職してくるとのこと。アルバイトからの入社も多い。バイトを通じて仕事の面白さは理解しているし、成長中の企業なので将来性にも期待できるからだ。
 多店舗展開を果たした大手チェーンであっても勢いが弱まれば、50店の急成長チェーンの魅力に負ける。私自身の実務経験やコンサルとしての教育現場状況からも、それは実感できる。上記企業の人事担当部長は次のように語った。「優秀な人材を集めるためには、常に成長していることが大事。成長しているからチャンスに満ちていて、頑張っていればいつか自分もチャンスをつかめます。だからうちは離職率も低い。また、当社では上司が部下の話をしっかり聞きます。ミーティングや面談のほか、聞く機会をたくさん設けています。これは仕組みを越えて、企業文化となっています」
 もちろん、勢いだけでは成長は継続しないし、いつか人の流入も止まる。一つ上のグッドカンパニーを目指して努力し続ける必要があるのだ。以下、定着率の高い優良企業が人材育成のために実践していることを挙げてみた。
 1、社長から新入社員への激励の手紙
 2、本社教育部による定期的な面談
 3、エリアマネジャーのサポート(店舗見学・食事会)
 4、完全週休2日制実施と、残業時間の軽減
 5、有給休暇取得の奨励
 6、7日間のリフレッシュ休暇
 7、社内Webでの情報共有化
 8、社内コンベンションでの表彰
 社員を気遣うきめ細かい仕組みばかりである。これをお読みのトップや経営幹部の方々は、「ここまではできない…」とお思いかもしれない。だが、飲食業が次世代の人材や他業界からの人材を確保していきたいならば、これらを一つずつ実行していくしかないのだ。そして、実行するには利益(原資)をアップする必要がある。
 会社はグッドカンパニーを目指すべきである。そしてグッドカンパニーがビッグカンパニーとなり、その中からグレートカンパニーが生まれるのだ。

■求心力となる行事・教育の継続

 本誌1月号で「人材育成を継続する企業だけが生き残る」という文を掲載した。人が集まる会社は、あらゆる教育の機会や社内行事を定例化し、参加しやすくしている。以下、そのポイントをまとめた。
 1、○○大学・アカデミーの創設
 2、資格取得制度・eラーニング
 3、環境整備点検・バスウォッチング
 4、国内・海外のストアコンパリゾン
 5、店外セミナー・社外講師による講座
 6、全事業所対抗運動会(スポーツ大会)
 7、アルバイトの卒業式・トップランチ
 8、社内報・MVP制度・賞賛プレート
 9、接客コンテスト・料理コンテスト・ナンバーワン店舗選手権
 10、地域の清掃活動
「2」は、バリスタ・野菜ソムリエ・オイスターマイスター・居酒屋の焼き師資格など、技術向上を目指すための各種資格取得制度のバックアップ。eラーニングは理念や基本サービス、商品知識、原価管理、人件費管理などについて学ぶための映像教材。単位をとらせるなどの方法で社員のステップアップを図っている企業もある。
 「3」は他店の店長が環境整備状況をチェックしたり、エリアの全店長がバスで移動しながら店舗を巡回して弱み強みをディスカッションするなど、広い視点でのチェックを学ぶ。
 「6」のスポーツ大会は社員の一体感を高めるのに役立ち、⑦のアルバイト卒業式や表彰は、新卒入社を促す好材料になる。またトップランチ(社長と社員の定期的なランチ面談)は貴重なコミュニケーションの場だ。
 「8」店舗数が50を超えるようなら社内報も必要。社長方針、店長や新入社員紹介、衛生管理・防犯防災・安全管理、改善提案や成功事例など、様々な情報を共有できる。表彰されたスタッフを紹介する賞賛プレートは、お客様の目に留まる箇所に掲示。
 「9」はいずれも技術を磨くコンテスト。上位入賞者が海外セミナーに参加できる企業も。
 「10」毎月1回程度、全社員・P/Aで店舗周辺を清掃。地域に喜ばれ、従業員の人格も磨かれて、よい企業文化が育まれていく。

 日本経営品質賞を2度受賞している株式会社武蔵野の小山昇社長は、「社員教育にお金をかけすぎて倒産した会社は1社もない」と語っている。社員教育は「量が大事」だとも。「間隔をあけずに反復していけば質も高くなる」という。コミュニケーションもまた、量がポイント。たくさん行うことで体にしみついていくのだ。
 人が集まる会社には、夢に満ちたビジョンを語るトップがいて、従業員を大切にする社風があり、人を育てる教育の仕組みや求心力となる行事がある。これらを参考に一つひとつ実践して、よい人材を集めていただきたいと願う。

2016年4月号特集コラム

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